演出家
「では、準備ができたようなので、
いつものシーンから始めます。では、電気を消してください」
そう演出家がいうと、
スタジオ内の電気がすべて消灯される。
「え?完全に真っ暗になったけど・・この状態で何が始まるの!?」
スタジオ内は、
光が一点も入らないくらい・・
完全な真っ暗になった。
まさに、闇の中のようだ。
それは中央のパイプ椅子に座った
8人の様子はもちろんのこと・・
演出家の姿も、その他の出演者のメンバーも、
一切視界に捉えることが出来ないくらいだった。
演出家
「8人は、とある建物の、真っ暗な一室に、閉じ込められています。皆さんは薬で眠らされて、この一室に連れてこられ、目にはアイマスク、そして、両手には手錠を掛けられた状態で、拘束されています。」
演出家は、真っ暗闇の中、
淡々と状況の説明をし始めた。
演出家
「薬のせいで、まだ皆さんの意識は朦朧としています。そんな中、一つの大きい物音で、それぞれが目を覚ましてゆきます」
「な、なるほど・・
そういうシチュエーションなのか・・」
僕は、演出家の説明を聞きながら、
じっくりとその様子を想像する。
演出家
「では、いきます・・・・・パンっ!!!」
演出家の鳴らした手の音が、
真っ暗なスタジオの中で響き渡った。
何も見えない状態。
そんな中、服がこすれる音、
パイプ椅子がきしむ音、手錠がカチャカチャとなる音、
そんな音が、少しずつ聞こえてくる。
そして、少しすると・・
「え?」
「なに、これ?」
など、目を覚まし始めた者たちの声も
少しずつ聞こえてくる。
すると・・・
「ギャアーーーー!!!!!」
突如、叫び声が一室にこだまする。
それを聞いてパニックに陥る者たち。
真っ暗闇の中、現状を理解できず、わめき続ける者。
それを諭すように、落ち着きを払おうとする者。
声を震わせながら、うずくまっている様子の者など。
様々な人間の感情が、暗闇の一室で交差しつづける。
そんな中
「みんな落ち着いて!まずは・・明かりを探そう」
と、一人が率先して場をまとめようとする。
最初はその声に疑問を呈す者や、従わない者もいた。
しかし、時間が経つにつれ、
みな少しずつ落ち着きを取り戻し・・
その声に従い、みなは一度
声を出すことを、音を出すことを止め、
冷静に、この状況を確かめ合うようになる。
そして、真っ暗闇の中・・
それぞれが明かりになる物を探し始める。
そこが、どんな空間なのかも分からない。
むやみに動き回るのが、安全なのかもわからない。
何か危険が目の前に迫っているのかも分からない。
そんな恐怖に包まれた状況の中、
地面を這いつくばるように
それぞれが辺りの状況を
少しでも把握しようと・・・
ゆっくりと動き始めている。
すると・・
「壁だ、ここに壁がある!」
1人が声を上げる。
その声に皆が反応する。
「壁沿いに進めばもしかしたら、
電気のスイッチがあるかもしれない・・進んでみる」
その声に
「ありがとう!」
「お願い!」
「見つかりそう?」
「大丈夫?」
など、周りの皆も呼応する。
皆が何とか、
この状況を脱しようと励まし合っている。
そして・・
「スイッチだ!押します・・」
パチっ!
電気が付く。
みなは眩しそうに、目を細める。
「ここは一体・・・」
・
・
・
演出家
「パンっ!はい、終了」
演出家が、終わりの合図を出す。
その瞬間、8人は
ぐったりと地面に腰を下ろす。
僕は、時計を確認した。
電気が消えて暗闇になり、
再び電気がつくまで・・・
およそ20分がたっていた。
「な、なんなんだ、この稽古は・・・」
僕は、恐怖で身体が震え続ける。