新津駅(新潟県)と会津若松駅(福島県)を結ぶ「SLばんえつ物語」
SLの運転手「機関士」を目指す男性の舞台裏に密着しました。
SLの運転に必要な国家試験をうけた男性。
無事に合格できたのか、そして夢だった「SLばんえつ物語」の機関士になることができたのでしょうか。
黒煙を上げて走る蒸気機関車。
秋葉区の新津駅と福島県の会津若松駅を結ぶ「SLばんえつ物語」です。
"貴婦人"の愛称で呼ばれたC57 180号機は、1969年に一度引退しましたが、地元の熱い声に応え1999年「SLばんえつ物語」として復活しました。
そのSLの機関士を目指すJRの運転士・丸山巧生さんです。
【丸山巧生さん】
「この新津乗務室で乗務してるってことも何かの縁で、せっかくここで働いているんだから最終的にはSLの機関士になろうって前から決めていたので」
国家試験の結果は?
SLの運転に必要な国家資格の取得に向け、およそ半年間にわたり訓練や勉強を続けてきた丸山さん。
10月に行われた国家資格の技能試験……その結果は?
【丸山巧生さん】
「無事に合格しました!」
見事 合格です!
【丸山巧生さん】
「普段とは違う緊張感で試験やるんでホッとしてますね、一番は」
無事に必要な国家資格も取得し安心したのも束の間。
SL機関士になるにはまだ関門が残っています。
国家資格取得もまだ難関が・・・「見極め乗務」で試練が
それが、機関士として一本立ちができるかどうかを会社が判断する最終試験・「見極め乗務」。
利用客を乗せた実際の営業運転でその技量を判断します。
【丸山巧生さん】
「あんまりこう気負わず普段通りにやれればいいかなと思いますけど、紅葉が進んで落ち葉が結構落ちているのでちょっとだいぶ滑る時期になってきているのでそこに気を付けながら運転しようと思います」
見極め乗務で丸山さんが運転するのは津川駅から喜多方駅間です。
【試験官・遠藤遼太さん】
「それでは喜多方まで見極めということで、空転多いけどいつも通り対応してもらえれば大丈夫かなと落ち着いてやってもらえたら」
まもなく発車の時刻です。
「発車・進行・定時」
津川駅を発車した「SLばんえつ物語」。
SLの運転は機関士と機関助士の2名体制。
機関助士が石炭を入れ、機関士が操縦します。
夏場は室内が60度近くなる過酷な空間です。
出発からおよそ1時間。
福島県の山都駅に到着しました。
この先は勾配が厳しい難所…丸山さんたちが心配しているのが「空転」です。
枯葉が線路に落ちることで車輪との摩擦が低下し空回りしてしまうのです。
勾配が厳しい難所で「空転」…その時どうする?
特に山都駅と喜多方駅の間に位置する慶徳トンネル付近は勾配が厳しく過去にも空転が発生している鬼門です。
磐越西線随一の名所・一ノ戸橋梁を通過し、列車は長い上り坂へ……。
【丸山巧生さん】
「あ、やばいこれ」
カーブに差し掛かると再び減速。
【丸山巧生さんと機関士・機関士助手たち】
「あーだめだ、右カーブと全然違う」
「やっぱだめだ、左だめだ」
「がんばれ」
「いけ、がんばれ止まるな」
「走れ走れ」
「あ、止まった」
滑り止めの砂が出なくなってしまいました。
作業員が線路に降りて点検し、なんとかトンネルの入り口まで進んだものの、再び停車。
「トンネル入ってどのくらい登るっすか?」
「結構登る」
「やっとここまで来たと思ったのに」
この先、トンネル内で停車してしまうと煙が充満し命に関わることも。
丸山さんはこの日の運転はここで打ち切り、山都駅まで戻る判断をしました。
試験官はどう見ていたか…そして迎えた“晴れ舞台”
【丸山巧生さん】
「会津若松までたどり着けなかったんで、難しい状況にしても乗車してくれたお客さんに申し訳ないなってのが一番ですね」
【試験官・遠藤遼太さん】
「安全を度外視にしてその先の運行はできないという判断したのは素晴らしかったですし、今回そういった判断を取れたってことは乗務員の資質としては重要な部分なのでとても胸を張ってほしいなと思います」
見極め乗務から2週間後の11月22日。
そこには晴れて機関士となった丸山さんの姿がありました。
(丸山さんが点検)「出区番線北7番線よし機関車番号C57180号機よし。移動禁止表示掲出なし」
この日は機関士デビューの晴れ舞台。近所に住む家族が見学に来ました。
少し照れ臭そうに手を振り返します。
機関士デビューの晴れ舞台に家族も
さらに地元の妙高から両親も駆けつけました。
【丸山さん両親】
「息子のね、運転するのに乗れるってのはとっても幸せだと思います。わたしらの年代にとってはSLってすごく懐かしいっていうかよく乗ってたやつなので、普通の運転と違うと思うので難しいと思うんですけど、やっぱり息子として誇りに思ってすごいなと思います」
【丸山さんの妻】
「ずっとSL乗りたいって運転したいって言ってたので夢がかなって良かったです」
【丸山巧生さん】
「恥ずかしいです。でも嬉しいことですね。自分の仕事が見てもらえるのは」
SLの技術を次の世代へ「色々経験していく中で」
そして、出発時間の午前10時3分。
【運転席】
「発車進行」
この日同乗していたのは機関助士になって1年目の後輩・山本洋輝さんです。
将来は機関士を目指したいといいます。
【山本洋輝さん】
「まずお師匠さん(丸山さん)と一緒に乗ってみたいってのは今の楽しみでもあるので、恥ずかしいところ見せないようにもっと腕を磨きたいなと思います」
【丸山巧生さん】
「SLばんえつ物語は週2回しか乗れないという中で経験を積んでいくことはすぐには難しいんですが、いろいろ経験していくなかで自分の技術を上げていければと思います」