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「パーティーヤンガー」達の装い



そして・・・


「運命の2日目」の
開始時間はやってきた。


ストレッチレディの指示で、

参加者の僕らはスタジオの中を
円を描くように丸くなって座り、


演出家の登場を待った。


僕も、
「名前入りのサッカーユニフォーム」
「ジーパン」という・・




あたかも某日本代表戦の夜に渋谷でごった返す
「パーティーヤンガー」達の装いで


演出家の登場を待つこととなった。


そんなときだった。


「あれ・・・?」



僕は周りの参加者の様子を見渡してみると
妙な違和感を感じた・・



「・・・昨日より、参加者少なくない?」



僕はもう一度、
しっかりと見渡してみる。


「やっぱりそうだ!昨日、体が硬いことを注意されていた人たちや、
”お風呂”の演技を途中で辞めてしまった百戦錬磨の2人がいない・・」



なんと恐ろしいことだ。


これが本物のオーディションなのか・・


昨日「失格」の烙印を押されてしまった者たちは、
2日目のオーディションには姿を現さなかったのである。



「・・・ガチのオーディションって、こういう感じなの・・?
自分で判断して・・辞退するものなの・・?
っていうか、昨日の様子だと、僕は2日目に来る資格ないよね・・?」




とてつもない不安に襲われる。



いやでも、来ちゃダメなことはないはずだ・・・


だって、「明日も待ってるね」って、
あの演出家も昨日言ってくれたし・・


とりあえず、
今日こそ勝負の一日になるはずだ。


しっかり気持ちを切り替えていこう・・


すると…


「ドシドシドシ・・」


階段の上から足音が聞こえてきた。


「え、演出家がきた・・!」


会場中に緊張感が走る。


スタジオに続く階段を
演出家が下りてくる。


その威圧感と不気味な雰囲気に、
僕は目をそむけたくなる。


「おはよう」

「おはようございます!」



演出家のあいさつを合図に、
みな即座に立ち上がり、大きな声で返答した。


まるでその様は、
“上官に号令を掛けられた兵士”のようである。


いや、あながち間違えではない。
みなこの”戦地”に赴いた戦士たちなのだ。


命を懸けて、人生を賭けて
この戦地に乗り込んできているのだ。


僕も、その一人だ。



上官
「あれ?昨日より人数減ってるね。
まぁ、僕のオーディションではよくあることですね」



ゾワゾワゾワ・・


上官が言葉を放つたびに
戦場には緊張が走る。


すると


演出家
きみ、ちゃんと今日も来たんだね。




「は、はい!ちゃんと来ました!」



は、話しかけてくれた・・
これは印象に残っている証拠だ、よし!


演出家
なんでジーパンなの?



「あ、そ、それは・・」


演出家
その恰好、ミーハーなサッカーファンみたいだね



「・・へへへ」



お、なんかイジってくれている・・
これは高評価なのかもしれないぞ・・!



演出家
同じミスを繰り返す人は、現場に必要ないよ。




「え・・」



そう言い残して、

演出家は僕の横を通り過ぎ、
審査員席に腰を下ろした。



「それじゃあ、2日目のオーディションを始めます」

裏腹なことばかり




「なぜこうなってしまうのか・・・」


今までとは、全く”逆の状態”だった。


これまでは、

大事なオーディションを控えていても、
大した準備をせず・・

だけど、当日何とか乗り切って、
偶然うまく行くことばかりだった。


でも、今回は
初日のオーディションの様子を受けて


「このままではダメだ!」

「万全の態勢で臨まなければならない!」



という強い危機感をもって・・

短い時間の中でもできる限りのことを
準備して臨んだというのに。


なぜこうなってしまうのか・・



いつも僕の思いとは、裏腹なことばかり。



演出家
じゃあ、今日も柔軟体操から始めます





その合図とともに、今日も同じく
ストレッチレディがスタジオの中央に位置どった。


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カサハラケント
カサハラケント (笠原賢人) 1988年5月17日生まれ 新潟県新発田市(旧紫雲寺町)出身 2011年、大学を卒業後、 役者・絵描き・クリエイター活動を開始。 役者としては、 主に舞台(40本以上)やCM等で活動。 絵描き・クリエイターとしては、 個人や企業・行政から依頼多数。 横浜の商業施設でのグッズ販売に、 ZeppTokyoで開催されたファッションイベントでは 自身作成のロゴがメイン採用。 2019年には、 地元新発田市の図書館で個展も開催。 また、2018年からは 新発田市と共同でプロモーションムービーを制作。 2021年に高校生とともに企画・制作したCMは 「新潟ふるさとCM大賞」で準グランプリを獲得。 その他にも、 舞台やコントライブの脚本や、 人気バンドユニットの小道具制作など 幅広くクリエイター活動を展開。 将来の夢は、 「新発田で映画を撮る」こと。 そして、全国の人に 「新発田」を「しばた」と 読んでもらえるようになること。