入口の手前で、
ややテンション高めな、
笑顔の素敵な“ガタイのいい人”が迎えてくれた。
僕
「こ、こんにちは!」
ガタイのいい人
「エントリーシートをお預かりしますねっ!」
僕は、その勢いに押されながらも
エントリーシートを渡した。
ガタイのいい人
「ふむ、カサハラケント君ね。よろしく!」
僕
「よ、よろしくお願いします。」
ガタイのいい人
「えーと、カサハラ君は、“音楽コース”を希望ね。
そしたら審査で使うCD音源を用意して、空いている椅子に座ってお待ちくださいっ!」
僕
「…は、はい、わかりました。」
控室の中には、すでに20人近くの参加者が
緊張した面持ちで椅子に座っている。
「やべぇ、CD音源なんて用意してねぇ・・」
僕は、持参した“オーディション雑誌”の
募集要項を確認した。
「※音楽コースを希望する方は、
審査で歌うCD音源をご用意ください。」
「な、なんてこった・・・」
とてつもなく大事な部分を、
完全に見落としていた。
や・・やってしまった・・・
よく芸能界では
「礼儀正しく“ちゃんとした人”が生き残る」と聞く。
ましては、このオーディションは
芸能界を目指す夢追う者たちがつどう
「芸能養成所の入所」をかけたオーディション。
そのオーディションの審査の大前提には
「ちゃんとした人」という条件は間違いなく必須である。
そのオーディションの審査で必要な
『CD音源』を忘れてくるなんて・・・
『え?何しに来たの?』
『音楽コース受けるんだよね?』
『本気で目指す気ないんじゃない?』
と、僕が審査員の立場だったら
絶対に最低評価を下してしまう。
「な、なんてこった・・・」
少しでも合格する可能性を高めるために、
“俳優コース”から“音楽コース”に変えたのに・・・
このまま音楽コースで受けたら、
確実に不合格になってしまう。
「なんとかしなければ・・・」
僕は少しでもこのピンチを脱することができないかと
周りの様子を見渡した。
「・・・おや?」
何やら台本のようなものを持っている人がチラホラいる。
「あの台本って、
もしかして“俳優コース”の人が演技審査する台本・・?」
控室にいる何人かが、台本を覚えるためか
小声でぶつぶつセリフのようなものを口に出している。
「やっぱりそうだ!
俳優コースは演技審査の台本を渡されて、今セリフを覚えてるんだ。
ということは・・・」