その後
冒頭のト書きのシーンが終わると
今度は容疑者8人による絶え間のない会話劇が進んで行き・・
観客も、その会話の一言一句を聞き逃すまいと
前のめりになって、舞台上に視線が釘付けになる。
その様はまさに
「目撃」そのものだった。
演出家の求めているもの、世界観。
そのすべてが、そこで繰り広げられている。
舞台裏のモニターを通し
身体を震わせながら、僕はその様子を覗いていた。
「(もう少ししたら、僕もこの舞台上に立つことになるのか・・・)」
そう思うだけで
尋常じゃないほどの緊張感に襲われる。
でも、時間は待ってくれない。
容疑者8人のシーンがどんどんと進み、
刑事2人の登場シーンも過ぎていくと・・
あっという間に
”遺族たち”シーンがやってきた。
「まもなく”遺族のシーン”です、扉の前に準備をお願いします」
舞台監督が小声でアナウンスし
”遺族たち”は舞台中央に位置する扉の後ろに待機する。
そして・・・
ステージ上から容疑者役の
“キッカケ台詞”が聞こえた瞬間
舞台監督が一気に扉を開けて・・・
僕ら”遺族たち”は
一斉にステージ上へと雪崩れ込んだ。