見覚えのないアドレスから
届いたメールを開いてみると、それは・・
あの“ストレッチレディ”からのメールだった。
「先日は舞台出演、お疲れ様でした。演出家がカサハラさんとお話ししたいことがあるそうです。一度、お時間をいただけないでしょうか」
「(な、なんだろう・・・)」
僕は不安になりながらも、空いている日時を返信し・・・
後日、指定された”演出家のオフィス”に向かった。
オフィスに到着し
恐る恐るインターホンを鳴らすと・・・
ストレッチレディが迎えてくれた。
「中へドウゾ」
ストレッチレディに案内されると、
部屋の中央のデスクに演出家がどっしりと腰を下ろしていた。
演出家
「やぁ、お疲れ様。そこに座って」
カサハラ
「は、はい・・」
僕は、中央に用意された椅子に座り、
演出家と正面で向き合うかたちとなった。
演出家
「初めての舞台はどうだった?」
唐突な質問から始まった。
カサハラ
「えーっと・・」
この演出家の前で、偽りは通用しない。
僕は、正直な気持ちで
初めて経験した舞台での大変だったこと、良かったこと。
そして・・・
芸能事務所に所属できなかったことの悔しさ、
これからの不安、というものも演出家に洗いざらい話した。
すると・・
演出家
「なるほどね。まぁ、君の言う通り、あの配役で、芸能関係者に声をかけてもらうのは、ほぼ不可能だったかもしれないね」
カサハラ
「・・・やっぱり、そうですよね・・」
演出家
「まぁ、でも、もし君に、ずば抜けたスター性やオーラなんてものがあったら、あのアンサンブルの配役だったとしても、声をかけられた可能性はあったかもしれない」
カサハラ
「・・は、はい・・・」
演出家
「でもね、そんなものは、僕にとって重要じゃない」
カサハラ
「・・・え?」
演出家
「僕は、君の役作りにかけた時間や努力を知っています」
カサハラ
「え?・・」
演出家
「君の演技を、高く評価しています」
カサハラ
「・・・・あ、ありがとうございます!!」
嬉しかった。
稽古中にも、本番中にも演出家から
そんなふうに言ってもらえたことはなかったから。
だから、本当に嬉しかった。
演出家
「それで、カサハラ君は」
カサハラ
「・・はい」
演出家
「これからも、役者をやっていきたいと、思っているかい?」
カサハラ
「はい・・やりたいです!」
演出家
「わかりました。じゃあ、今日から
”うちの事務所”に所属してください」
・
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・
・
・
え?
今、なんて?
演出家
「今日から君は、正式に・・
『職業:役者』 です」
第3章「職業:役者」
おしまい