ゲネプロの合間に
『芸能事務所に所属するチャンスだよ』
そう、演出家に言われてから・・
その言葉が頭の片隅から離れることはなかった。
ゲネプロでは叶わずとも本番期間中に、
もしかしたら芸能関係の人が見に来てくれて
奇跡的に目に留まって、
芸能事務所に所属できるチャンスがあるかもしれない。
そんな淡い期待を抱き続けながらも・・・
全力で舞台に立ち続けた。
お客様に最高の演技を
届けることに必死になった。
その先に、もしかしたら
何かが待っているかもしれないと信じて。
しかし・・
結局そんなのは、夢のまた夢。
誰からも声をかけられる事はなかった。
でも、それは
当然と言えば、当然なのかもしれない。
僕が長い時間を掛けて、悩んで悩んで作り上げた
”神谷椎太郎”というキャラクターも
傍から見れば
“セリフのない、アンサンブル(エキストラ)の一人”
そんな“端役”に注目する人なんて
いないと考えるのが当然である。
結局、最初から
ノーチャンスだったのだ。
「(やっぱり、この世界で生きていくのは甘いものではないのだな・・・)」
終演を迎えた翌日から
僕はまた“何者でもない”状態に戻ることになった。
すでに学生を卒業しまっている僕は、
ただのフリーター。
また、アルバイト漬けの日々に戻るのだ。
が・・
舞台が終演してから、数日後のこと。
バイト終わりにスマホを見てみると
一通のメールが届いていた。