「稽古を再開します。」
席に戻りながら、
演出家は全体にそう声をかけた。
容疑者役の8人は各々、
前のシーンの終了時点の位置について
開始の合図を待つ。
まだ、完全にセリフを覚えていないのか、
容疑者役8人の内、6人は台本を抱えながら待機している。
演出家
「では、先ほどの冒頭のシーンの終わりからスタートします。暗闇の密室で、アイマスクと手錠を掛けられた中、みなさんは何とか部屋の明かりをつけることが出来ました・・・・・・・・・・・パンっ!」
演出家の手を叩く音が
スタジオ中に鳴り響く。
「ここは一体・・」
明かりが付き、
そう主人公が声を漏らすと・・
そこからは”台本通り”にお芝居は進んでいく。
そして、そのお芝居は、
まさに突風が吹き抜けるかのような・・
凄まじい速さのものだった。
それもそうである。
拘束された8人の容疑者はみな、
この状況を理解できず、混乱状態。
明かりが付いたとて、
何処かも知れぬ一室に閉じ込められ、
身に覚えのない他人たちが
自分と同じようにアイマスクを首に掛け、
両手は手錠を掛けられている。
そんな状況で
冷静になれる者などいないはず。
みな、この状況を少しでも理解しようと、
神経を尖らせ、凄まじい速さで言葉が飛び交い続ける。
「本当に凄い・・こんな速さの会話劇の中で、セリフ間違いはもちろん、
途中でつっかえたりする事も全くない。みな只者ではない・・」
その8人のうち6人は、
台本を持ちながらお芝居をしている。
だからと言っても・・
台本を持ちながらでも
このスピードについていくのは
常人の成せる所業ではない。
それほど異様な空間なのだ。
しかし、だ。
その中でも、
すでに2人は”台本を持たず”・・
この展開について行っている。
というよりも、この2人がこの展開を
“引っ張っている”といっても過言ではない。
その一人は・・・
主人公役の
”2.5次元ミュージカル出身”の俳優さん。
この作品の主役を任される
座長と呼ばれる人間は・・
やはりレベルが別次元であった。
そして、もう一人は・・・
なんと、ストレッチレディだ。
「この人、どんだけポテンシャル秘めてるんだよ・・!!」
もう・・・
ストレッチレディには、驚かせられっぱなしだ。