黒煙を上げて走る蒸気機関車「SLばんえつ物語」
JR磐越西線で運転している蒸気機関車「SLばんえつ物語」。
このSLの運転をするのが「機関士」と呼ばれる人たちです。
専門の国家試験や訓練が必要なこの「機関士」に今年JRの運転士2人が挑戦しました。
その舞台裏を2回に渡りお伝えします。
走り出したSL機関士の夢……果たしてかなうのでしょうか。
汽笛大きな汽笛を鳴らし黒煙を上げて走る蒸気機関車。
「SLばんえつ物語」です。
新潟市秋葉区のJR新津駅と福島県の会津若松駅間を結び、四季折々の車窓を楽しめるのが魅力です。
【乗客】
「煙が入ってきて、それがSL乗ってるなって感じがしていいですね」
「昔を思い出すってのはあるんでしょうけど、今の電車にはない車輪が色々なところが動いてなんか生き物っぽいところ(が魅力)じゃないですかね」
SL乗客数100万人突破
その「SLばんえつ物語」。
1999年の運行開始から25年以上が経ち、今年の夏には乗客数が100万人を突破。
記念イベントには県の内外から鉄道ファンが集まるなど多くの人から愛される存在となっています。
【訪れた家族】
「子どもがちょうど電車とか車好きなので、いいなと思ってきました。そんなに乗られているんだなとびっくりしました」
Q)きょうSL見てどうだった?
【神奈川から家族で来た子ども】
「楽しかった。運転士になりたい」
「男ならすげえなって思わない人はいない」SL機関士を目指す
新潟市秋葉区にあるJR新潟統括センター新津乗務室。
ここにSLの運転士である「機関士」を目指す男性がいます。
丸山巧生さん・37歳です。
【丸山巧生さん】
「男ならこれが走ってるの見てすげえなって思わない人いないと思うんですよね。これが動いているの見ると感動しますし、それができるチャンスがあるっていうのはやりたいと思いました」
国家資格の取得や実務経験が必要
丸山さんは普段、JRの運転士として信越本線などの普通列車に乗務しています。
これまで「SLばんえつ物語」の車掌や機関助士の経験はありますが、実際にSLを運転する「機関士」になるためには専門の国家資格の取得や実務経験が必要になり、ハードルは決して低くありません。
それでも丸山さんは同僚の伊藤知樹さんとともに、ことし機関士養成のメンバーに選ばれました。
【丸山巧生さん】
「SLも全国的に走っているところが少ないですし、この新津乗務室で乗務していることも何かの縁でせっかくここで働いているんだから最終的にはSLの機関士になろうっていうのは前から決めていたので」
かつて全国を駆け巡った「蒸気機関車」。
新津地区は信越線や羽越線、磐越西線の3線が乗り入れ、"西の米原・東の新津"と称されるほど全国有数の「鉄道の街」として知られるようになりました。
鉄道のまち「新津」だからこそ!1999年に「SLばんえつ物語」復活
そして、その鉄道の街に1963年に配置されたSLがC57-180号機です。
終戦直後の1946年に製造され、その大きな動輪と細いボイラーで優美に見える姿から「貴婦人」の愛称で親しまれてきました。
1969年に廃車になるまで県内各地を走り、引退後は街のシンボルとして地元の小学校で保存されていましたが、地元からの熱い声に応え1999年に「SLばんえつ物語」として復活を遂げたのです。
「子供たちにとってヒーローになってほしい」機関士の育成は6年ぶり
現在、JR東日本管内で走るSLは群馬県の高崎とここ新津のわずか2か所のみ。
新潟ではコロナ禍などによりSL機関士の育成を一時的に休止していましたが、技術の継承などのため、6年ぶりに機関士の育成を再開することに……そこで丸山さんと伊藤さんに白羽の矢が立ちました。
【JR東日本新津乗務室長 道田英明さん】
「SLの機関士を目指したいという気持ちと適性があるなということで任せられる2人だなと思って今回2人を選んだという。機関士として地域の皆様そして子供たちにとってヒーローになってほしいなと思っていますので、頑張っていってほしいなと思います」
車庫で点検の訓練
「SLばんえつ物語号」では運転のない平日は車庫で点検の訓練が行われます。
これは運転前に運転士が必ず行う「出区点検」。
機関車の中と外にあるおよそ200の項目を制限時間内に決められた順番で点検しなくてはなりません。
【丸山巧生さん】
「声を出すことで自分がこれを見ているんだよというのを意識づけるようにしています。SLは蒸気が出たりすると音が大きくなってしまうので大きい声を出さないと、相手に聞こえない声だと伝わらないので普段から大きな声を出すようにしています」
点検時には異常時を想定し、あえて重要な部分に異物を置くなどして機関士の対応力をチェックします。
すべては安全にSLを運転するために必要な訓練です。
2人で目指す機関士の夢!勉強は・・
丸山さんと伊藤さんはことし今年5月からJRの研修センターなどで機関士になるための勉強を続けています。
当面の目標は、SLの運転に必須となる「甲種蒸気機関車運転免許」と「ボイラー技士1級」の2つの国家資格を取得することです。
【伊藤知樹さん】
「SLと関わってる部分もあるんですけど、関わってない勉強もかなり多いですよね、なんで楽しくはないですね」
Q)結構お勉強は得意なタイプですか?
【丸山巧生さん】
「いや、そんなことはないですね。
Q)合格率ってどれくらいなんですか?
「前調べた感じだと5割半分くらいですかね。一人で乗務するにはなくてはならない資格なのでプレッシャーはありますね」
2人で目指す機関士の夢。切磋琢磨して技術と知識を磨いていきます。
この日行われたのは実際にSLを出庫させ乗客を乗せずに新津から会津若松までを運転する訓練です。
「はいそれでは点呼お願いします。7時31分25秒です」
「はい、7時31分25オーライです。行ってきます、お願いします」
訓練同様、機関車を回りながら目と耳で一つ一つ確認していきます。
夏は車内の気温が約60度に…無乗客で運転する訓練
運転室の中を見せてもらうと……
蒸気機関車はおもに操縦を行う機関士と石炭を入れ機関車が走るエネルギーを作る機関助士の2人が連携して動かします。
様々な機器が並ぶ運転室。
夏は車内の気温が60度にもなるといいます。
水分補給は欠かせません。
【丸山巧生さん】
「走ってるとこんなもんじゃないですね。走行中だと真っ赤になって見えないと思いますね。この窯の中、暑いときで1200~1500度って言われています。暑くてつらいなって思うときはありますけど楽しみの方が勝ってますね」
現役SLとしては日本で最長距離を走行「新津駅~会津若松駅片道111キロ」
新津駅からは先輩・伊藤さんにバトンタッチです。
新津駅から終点の会津若松駅までは片道111キロ。
「SLばんえつ物語」は現役で走るSLとしては日本で最も長い距離を走ります。
機関室機関士と機関助士のペアで運転するSL。
前方の確認は左右の小さな窓で行います。
前方に大きなボイラーを構える構造上、信号の確認などは機関助士の仕事です。
「ばんえつ物語」は走る磐越西線はカーブやトンネル、勾配など変化に富んでいるのが特徴です。
機関士は路線の特徴だけでなく、車両数によって変わる重さなども総合的に判断して、運転しなければなりません。
車内では指導担当の先輩機関士とコミュニケーションを取りながら運転のイメージを膨らませます。
【伊藤知樹さん】
「SLってこうちょっと動くのが苦手な車両なんですよね。だいぶうまくなったとは思いますけど完全にはイメージしきれていない部分もあると思うのでそこはもうちょっと経験を積んだ方がいいのかなと思います」
「探求心を持って運転したい」夢のSL機関士へ
新津駅から会津若松駅間は通常片道3交代で行いますが、この日は訓練乗務。
それぞれの区間を伸ばして2交代で運転します。
この日の乗務が終了したのは陽が沈みかけた午後6時半過ぎでした。
【丸山巧生さん】
「試験まで残り少ない運転の回数になると思うんですけど、1日1日前回やったこと、うまくいったことだったりうまくいかなかったこと毎回考えながら日々探求心を持って運転していきたいと思います」
この日、丸山さんと伊藤さんはSLを運転するのに必要な国家資格「甲種蒸気機関車運転免許」の試験に臨んでいました。
試験は筆記と実技で3日間かけて行われます。
夢のSL機関士へ……半年かけて積んだ訓練の成果を発揮することはできたのでしょうか。
―――特集②に続く
機関士養成の最終試験の様子など中心にお伝えします。