集合時間のおよそ1時間前・・
僕は新宿の劇場に到着した。
すでに劇場の扉は開いており
スタッフさんが本番に向けた準備を
バタバタと進めているところだった。
「おはようございます!」
すれ違うスタッフさんに挨拶をしながら、
オーディション組の控え場所である
“舞台裏の通路の端っこ”に向かった。
するとすでに、
完全ヤンキーがウォーミングアップの
準備をしているところだった。
カサハラ
「おはようございます」
完全ヤンキー
「お~ケントおはよ~」
完全ヤンキーの表情は
また”いつもの感じ”に戻っていた。
完全ヤンキー
「ついに本番やなぁ~、ワクワクしてくるでぇ~!ケントはどうや?」
カサハラ
「そうですね・・・ついに来たかって感じですね・・」
完全ヤンキー
「なんや?いつもより元気ないぞ?どないした?」
カサハラ
「まぁ・・そりゃ・・」
僕がどんよりしている理由を
端的に話した。
完全ヤンキー
「まぁ、そんなことやと思ったで~」
カサハラ
「ゲネプロ前に、演出家からあんな”チャンス”の話をされたら・・・モチベーションの落差が大きすぎて、まだ低空飛行状態です・・」
完全ヤンキー
「そりゃ、あんな風に言われたら誰だって期待してしまうもんや。俺やって毎回、舞台出るときはそういうのに期待して、上手く行かずに落ち込んで、の繰り返しやで~」
カサハラ
「え?完全ヤンキーさんも、そうなんですか?」
完全ヤンキー
「せやで、まぁ、昨日は演出家が分かりやすく『ゲネプロはチャンス』って話してくれたけどな。実際、何回も舞台に出させてもろてると、ゲネプロが”個人的なチャンス”やってことに、俺も知ってはいたんや~」
だから、昨日のゲネプロでは終日、
完全ヤンキーは鬼気迫る表情で臨んでいたのか・・
カサハラ
「そうだったんですね・・・でも、完全ヤンキーさんは一応事務所に所属してるわけだし・・・
次に所属する事務所を考えてたりするんですか・・?」
完全ヤンキー
「そやな~。まぁ、それももちろんあるんやけど、ゲネプロには、芸能事務所の人以外にも、他の舞台の関係者やったり、脚本家、演出家、いろんな人が見に来る可能性があるねん~」
カサハラ
「あ、ゲネプロって、そんないろいろな方も見に来るんですね・・・」
完全ヤンキー
「まぁ、毎回そういう人がたくさん見に来るってわけでもないし、昨日のBキャストのゲネプロみたいに、誰も来ないこともあるんやけどな~」
カサハラ
「なるほど・・」
完全ヤンキー
「でもな、やっぱりこの業界は”繋がり”ってもんが大切やからな。1回1回のチャンスを逃さへんように、常に集中を切らさんことは大事やで~」
カサハラ
「確かにそうですね・・・」
完全ヤンキー
「まぁ、でもな、そうは言っても~、舞台で一番重要なこと、役者として重要なことはやっぱり”別にある”ねん」
カサハラ
「別に?それは一体・・」