「(いや待てよ・・必ずしも、向かって左側から審査が行われるとは限らない。もしも右側からスタートしてしまっては・・僕が一番手になってしまう恐れがある・・)」
今回の劇団オーディションは
僕の役者人生にとって”確実に大きな影響を与える”ものになる。
少しでも合格の確率を上げながら
リスクは最大限回避しなければならない。
「(よし、ここは、安全策を取って、真ん中に座ろう・・)」
幸いにも、今日オーディションを受けるメンバーの中で
現時点で会場に到着しているのは僕だけであった。
僕は空いている真ん中の席に
腰を掛けて、一息ついた。
おそらく、僕が椅子を選ぶまでの一部始終も
小柄な女性はずっと見ていたに違いない。
良いんです。
何も恥じることはありません。
このオーディションの
合格を勝ち取るためなのだから。
僕は再びプリントアウトした台本を取り出して
オーディション開始まで集中を高めることにした。
そして・・・
少しすると、オーディションメンバーがゾロゾロと入ってきて
小柄な女性に挨拶を済ませると、各々好きなパイプ椅子に座った。
すると・・・
「(おや?・・・今日は、別の事務所の人もいるのか・・?)」
この日まで何度か受けてきた
劇団のオーディションは・・・
同じ事務所の
”同期”もしくは”先輩”とだけ一緒だった。
おそらく、社長が各劇団と連絡を取りあって事務所のメンバーを
まとめてオーディションに送り込む日時を調整していたのだと思われる。
しかし、この日は
別の事務所の役者がどんどん会場に現れ・・・
結果的に同じ事務所の人は、他に誰もいなかった。
カサハラ
「(なんか・・・心細いな・・・)」
すると・・・