そして、攻守交替。
今度は僕が、
ヒノ君を評価する番。
「はい、じゃあ演技スタート。パン!」
演出家の合図とともに、
ヒノ君は“僕の演技”を開始する。
すると・・
「・・うそでしょ?」
ヒノ君は、
「体育座りをして目をつぶって、集中している様子の演技」
をしている。
これって・・・
そう。
これは、先ほど僕が演じた内容と
「全く同じ」ものだったのだ。
さっき僕は
「下手にヒノ君に似せるようなことはせず、
敢えて”自分に置き換えて”」演技をしたのだが・・
それと“同じ演技”を
しているということは・・・
ヒノ君は、僕の性格や特徴をちゃんと捉えて、
完璧に「カサハラケント」という人物を演じているのだ。
僕はそれを見て、愕然とした。
そして、不意に・・・・
感動してしまった。
「これが“本物の役者”なんだな・・」
演技と言うものは、
本当に奥が深く、本当に面白い。
しかし、この世界でやっていける
”僕の姿”は全く想像ができない。
そして、自信もない。
自信がないから、
他の方法で何とかならないかと、
余計なことばかり考えてしまう。
違うんだ。そうじゃないんだ。
もっと真摯になるべきだったんだ。
自分に言い訳ばかりして、
そんな生き方をして。
同い年くらいのヒノ君との
歴然とした違いを見せつけられて・・
僕は、潔く諦めがついた。
「パン!はい、終了」
演出家から演技の終了を
告げる号令がかかった。
まずは、
もう一組の方から評価が発表される。
やはりそれは
「高評価」なものだ。
そして・・
演出家
「じゃあ君、評価を発表して」
僕
「はい・・」
いろんな思いがこみ上げてきたが・・
僕はそれをグッと飲み込んだ。
僕
「悔しいですけど、完璧でした。」
演出家
「へぇ~、そう。」
僕
「はい、それ以外ありません。」