10分間の休憩後・・
演出家
「では、再開します」
演出家の合図で、
再び”遺族登場のシーン”が行われた。
”自由にセリフを話していいよ”
と言われてから、
2回目と言うこともあり・・
完全ヤンキーをはじめ、
”遺族たち”メンバーは
お芝居の最中に時折
「自由にセリフ」を
差し込むよう心掛けていた。
それは
うまく台本の流れに沿うモノだったり
中には
流れを切ってしまい
ぎこちなくなってしまうモノだったりと・・
みな失敗を恐れずに
とにかくセリフを差し込んでいった。
しかし・・
僕は、結局2回目も
”セリフを話すこと“が出来なかった。
演出家
「うん、いいですね」
僕を除く遺族たちは
演出家からの言葉に少し安堵した。
演出家
「挑戦することはとても良いことです。しかし、台本の流れを分かって差し込んでいるセリフが多いですね、そんな気遣いは必要ありません。もっと、遺族たちの存在意義、自然に生まれてくる感情に素直に従ってください」
遺族たち
「は、はい・・・」
言っていることが
分かるようで分からない、そんな感覚だった。
演出家
「あと、ヒノウエ」
ヒノウエさん
「ハ、ハイ・・!」
演出家
「途中で、流れを切るようなセリフを差し込んだな。どうしてだ?」
ヒノウエ
「ハイ、その時、ふと感じたことを、ソノママ言葉として出してしまいました・・」
演出家
「なるほど。よし、じゃあ、ヒノウエは、そのセリフを”採用”しよう。」
ヒノウエ
「ア、アリガトウゴザイマス!」
演出家
「あと、“遺族たち”以外のみなさんも、注意してください。普段の生活では、会話の途中に急に流れが切られるようなことも、自然にありえます。台本の流ればかり追っていたら、それに対応することは難しくなります。台本の流れには最低限沿いながら、ちゃんとその場に存在し、”普段の生活”のように対応してください。」
その演出家の言葉を聞いて
容疑者8人や、メインの遺族3人も
改めて、
求められているモノの難しさを
実感した様子だった。
演出家
「ヒノウエ以外の遺族たちは、まだ採用するセリフは決まっていません。10分後に再び今のシーンを行います。楽しみにしています」
そういうと、
演出家はスタジオの外へ消えていった。