そして、
オーディション当日を迎えた。
慣れない都営地下鉄に乗り、
なんとかギリギリ間に合う時間に
オーディション会場の
最寄り駅に到着した。
会場までは徒歩5分。
この日は
“遅刻することなく”到着できそうだ。
メールで送られてきた会場の位置を
スマホの地図機能で検索し、
目的の建物が
見えるところまでやってきた。
「何とか時間に間に合ったぞ・・
よし、早速、受付を・・・
な、何だあれは!?」
僕は、驚愕した。
オーディション会場が
併設された建物の入り口には・・
長蛇の列が連なっていた。
「え?あれって、もしかして・・
オーディション受ける人の行列!?」
僕は、列の最後方にやってくると、
建物の外に用意されている簡易的な
“オーディションの受付”のようなものを見つけ・・・
恐る恐る、
そこにいたスタッフさんに尋ねてみた。
僕
「すみません、これって、舞台のオーディションの列ですか?」
スタッフさん
「はいそうです」
僕
「な、なぬ・・!」
なんたることだ・・・
予想以上の参加者の数に、
僕は圧倒された。
スタッフさん
「お名前は?」
僕
「あ、カサハラケントです・・」
スタッフさん
「はい、カサハラさんね。76番になります」
76番・・・
ということは、最低でも76人以上は
この2次審査に参加していることになる。
この瞬間
『応募数が絶対に少ない”』
という、
僕の睨みは見事に外れた。
僕
「こ、こんなに多いと運営も大変ですね・・」
スタッフさん
「ええ、2次審査は3日間に分けて行うので、結構大変ですね」
僕
「え?・・3日間もやるんですか!?」
え?一体、参加者は何人になるの?!
えーっと、僕が76番で・・最低でもその人数が3日間で・・
あーもう冷静に計算できない!一体、何人なの!?何人なの!?
スタッフさん
「そうなんです。今回のオーディションは、応募数が660件くらいあって、2次審査に進んだのは約半分の300人ほどになるんです。それで、今日はそのうちの100人が2次審査を受ける感じですね。」
僕
「そ、そうなんですね・・・」
僕は、膝から崩れそうになった。
多いやん、めっちゃ多いやん!!!
なんで?!
雑誌の中に、あんなに“小さく掲載された”
舞台のオーディション情報を見つけて
こんなに沢山の人が
エントリーしてきたってこと!?
僕
「よくみんな、オーディション雑誌の
あんな“小さな情報”を見つけてエントリーしましたね・・・
もっと応募数少ないと思ってましたよ・・」
スタッフさん
「え?ネット上では結構大きく宣伝してたんですよ?」
僕
「え?」
聞くところによると、
僕が読んでいたのとは
別の“オーディション雑誌”や
別の“オーディションサイト”では・・
結構大きく募集をしていたらしい。
ていうか、
あれほどの有名キャストが出演する舞台だ。
大きく募集を掛けられているのは当然だ。
「ていうか、よりにもよって・・
小さく掲載している方の雑誌を読んでいたなんて・・・」
『募集数が絶対に少ない』
から、合格する可能性が高い
という、不誠実な自信は
この瞬間大きく崩れ去っていった。
そして、
「フリー」限定と言うメリットも
もはや、
これだけの参加者の数を前にして
“何も可能性を生まない”
ただの要素となってしまった。