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舞台監督
「お疲れ様でした!では、みなさん、帰ってしっかり休んで、明日から始まる本番に備えましょう!」
キャスト
「はい、お疲れ様でした!」
おのおの支度を整えて
帰路に就く。
その表情はゲネプロを無事に終えた安堵であったり
明日から始まる本番に向けた緊張感であったりと、様々なモノであった。
が・・・
僕らオーディション組はそれらとは違い・・
ただただ、一様に・・・
”ポカン”とした表情になっていた。
それもその筈である。
Bキャストのゲネプロに・・
芸能事務所の関係者と思われる人影は
“ひとっこひとりいなかった”からだ。
僕は帰宅の準備をしながら
横にいた完全ヤンキーに話しかけてみた。
カサハラ
「今のゲネプロ・・・客席にいたの、Aキャストの人たちだけでしたよね・・?」
完全ヤンキー
「・・・せやな。俺もしっかり確認したんやけど、客席でゲネ見てたんは全員Aキャストの人たちやったな・・」
完全ヤンキーの表情は、ゲネプロ前の殺気立っていた様子とは明らかに違い・・
鋭い牙をポキリと折られたように唖然とした表情そのものだった。
さらに・・・
オーディション組の女性①
「私も、気になって客席チラ見しましたけど・・やっぱり関係者いなかったですよね・・?」
オーディション組の女性②
「私も客席を確認しちゃいました・・・」
カサハラ
「やっぱりそうですよね・・・」
”希望”からの”現実”
そして”落胆”・・・
そんな感情が、ゲネプロ中に渦巻あい・・
僕らオーディション組はみな
もはや全員”お芝居どころではなかった”のだ。
「このゲネプロに賭けていたのに・・・」
そんな想い拭えないまま・・
みな支度を済ませてそれぞれ帰路についた。
今日ばかりは僕も、
完全ヤンキーとご飯に行く気力になれなかった。
完全ヤンキーもこの日は
僕をご飯に誘うことはなかった。
ただ・・・・
落ち込んでばかりはいられない。
翌日からは遂に
舞台の”本番”が始まるのだ。
もちろん、芸能事務所に所属することも
これらの役者活動にとってとても大事なこと。
でも、まずは、”役者”として。
お金と時間を使って
見に来てもらうお客さんのために
”プロの役者”として、期待に応えること。
それこそが一番重要なのだ。
でも・・
やっぱり芸能事務所には
早く所属した~い・・・!!
所属して早く、
いろんな作品にでた~い・・!!
有名になりた~い・・!!!
そんなチャンスを
もしかしたら今日掴めたのではないか
と思い始めてしまうと・・・
もはや、永遠ループ。
この日の夜、僕は・・・
ただただ上下に揺れ動き続ける
行き場のない感情を抑えることに・・
必死になることしかできなかった。
つづく・・・