2週間におよぶ舞台稽古
そして
小屋入りしてからの”場当たり”に
2回にゲネプロを終えて・・
ついに舞台の本番を
迎えることとなったカサハラ青年。
本当にここまでいろんなことがあった。
自身が演じる”神谷椎太郎”
というキャラクターの役作りから・・
役者としての心構え、
大きなチャンス、かけがえのない出会い。
凝縮され過ぎた日々の中で、
少しずつ少しずつ自信を持ち、破れ。
でも、逃げることだけはしなかった。
始まるのだ。
カサハラ青年の役者人生は、
ここから始まりを告げるのだ。
舞台上も客席も
完全な真っ暗闇の中・・・
”冒頭のト書きのシーン”
がゆっくりと始まる。
手錠があたって
カチャカチャと音が鳴り・・・
ギィィィとパイプ椅子の
きしむ音が静けさの中に響き渡る。
「(これから一体、何が始まるんだ・・・)」
不安にかられる客席からも
息を飲む音が聞こえてくるようだ。
だんだんと手錠のあたる音が
至る場所から鳴り響きだす。
それに共鳴するように
パイプ椅子のきしむ音もどんどん大きくなる。
すると・・
暗闇の中
容疑者の誰かが立ち上がり・・
その反動でパイプ椅子が倒れ
「ガタン」
と大きな音が劇場内に響き渡った。
その刹那・・・
「きゃああああああああ!!!」
容疑者の1人が
大きな悲鳴を上げた。
他の容疑者たちは
それに慄き慌てふためる。
客席からも、変な声があがる。
もはや、劇場内はパニック状態だ。
僕は、その様子を
舞台裏から”音”だけで聞いていた。
「(あの時もそうだったな・・・)」
それは、およそ2週間前の
右も左も何も分からない状態で参加した
稽古初日のこと。
その時、初めて体験した
”冒頭のト書きのシーン”。
あの時の恐怖は、
今でも忘れられない。
それを今
客席に座る
“観客”が体験している。
ついに始まったんだ。
舞台の幕が
切って落とされたんだ。