いや、待てよ・・・
こうなると・・・
「ちょっと、人数が合わなくないか・・!?」
僕は、前日立ててきた
配役の予想をおさらいすることにした。
1,「まず、本番までの稽古期間を考えても、オーディション組が容疑者役の8人に入る可能性は、あり得ない。」
2,「容疑者以外の配役を確認すると、あとは”刑事役”が2人、”遺族役”が3人。」
3,「刑事役と遺族役の計5役の男女比率は、男3:女2。これは、オーディション組の男女比率と合致する」
4,「つまり、オーディション組の配役は”刑事役”と”遺族役”に振り分けられることに確定!」
というのが、
僕の見立てであった。
が・・
ここで、
刑事役の2人はベテラン俳優さんを含め、
オーディション組以外の2人が務めることが確定。
そうなると・・
残す”遺族役”3人に対して、
オーディション組は5人。
どう考えても、
2人溢れてしまう。
「こ、これ、一体どうなるんだ・・・!?」
これからの展開は、
僕には全く予想のつかないものになってしまった。
「初舞台のド素人男にとって、
なんて酷な展開を用意するんだ・・」
演出家め・・
もっと、素直になってくれよぉ!
素直に、教えてくれよぉ!
いや、待てよ・・
そういえばヒノ君が
さっき、こんなこと言ってたな・・
「俺が考えるに、きっとオーディション組の誰かもあの容疑者の8人に抜擢されると思う」
「あれだけの審査を重ねて選びぬかれた、いわば“演出家好み”の5人な訳やから、今回の舞台も、きっと良い配役を与えられると思う」
「あのストレッチレディや。あの人はオーディションの時からずっとスタッフだった訳やし、今の冒頭の稽古も“代役”として入っていたに違いないで」
いや、待て待て!
もし、このヒノ君の説が有力だった場合、
オーディション組の5人の内1人が
容疑者役として抜擢されたとしたら・・・
あと”1人”だけが
溢れることになる・・
その場合に、
考えられるのは・・
そのもう1人も
”容疑者役に抜擢される”
というパターンだ。
・
・
・
うぉーー!!マジかよ!?
オーディション組の5人中、
“2人”も容疑者役に抜擢されるかもってこと!?
確率にして40%!?
いやいやいや、無理無理無理、怖い怖い怖い!!!
あの容疑者の中に入れられるなんて、
不可です!演技ド素人男には不可です!
頭の中がぐるぐる回り続ける。
すでに、刑事が登場する
シーンの稽古はスタートしている。
しかし、集中できない。
この状況で・・・
集中できるはずがない。
「うううう・・・・」
心の中で頭を抱え続けているうちに
気が付けば刑事役のシーンは終了していた。
再び、10分間の休憩に入る。
僕は、この苦しみを
一人で抱えることが出来ず・・
ヒノ君に話しかけた。
僕
「僕、オーディション組は刑事役と遺族役に振り分けられると思ってたんだけど、なんか違ったみたい・・」
ヒノ君
「せやな」
ヒノ君は元気がない。
演出家から「今日は見学」
と告げられたときから・・
ずっと、ヒノ君はこの状態だ。
僕
「刑事役が他の2人に当てはめられたってことは・・
僕らは、容疑者役か、遺族役に振り分けられそうだね・・」
ヒノ君
「そうなるやろな・・」
その返答には、
変わらず覇気がない。
僕
「僕みたいな”ド素人男”に容疑者役は絶対無理だから、僕は遺族役かな?」
ヒノ君
「そうやろね」
むむむ。
分かってはいるが、返答に少しムッとした。
僕
「まぁ、ヒノ君ほどの実力者なら、間違いなく”容疑者役”に抜擢だろうね。」
ヒノ君
「いや・・・」
さらに気を落とした様子で、
ヒノ君は、ゆっくりと続ける。
ヒノ君
「カサハラ君、”アンサンブル”って知ってる?」
僕
「え、何それ?」
ヒノ君
「要は、モブ役。ドラマや映画で言い換えると、”エキストラ”のこと」
僕
「エキストラ・・」
その言葉の意味は、僕でもわかる。
僕
「その、エキストラと同じ意味の、”アンサンブル”がどうしたの?」
ヒノ君
「俺らは、きっと今回”アンサンブル”としての出演や」
僕
「え?」
僕は、思考が止まってしまった。
アンサンブルとしての出演ってどういうこと?
ヒノ君
「よく、周りを見てみ。オーディション組以外にも、まだキャストがおるやろ?あそこに3人」
ヒノ君はスタジオの反対側に固まって
会話をしている3人を指差した。
僕
「うん。あの3人が何?」
ヒノ君
「あの3人が、”遺族役”や。」
僕
「え?」
ヒノ君
「さっき、向こうであの3人が遺族シーンのセリフ合わせしてる声聞こえたんや。確実や」
僕
「う、うん・・」
ヒノ君
「そして、刑事役も、さっきの2人で確定。」
そして、ヒノ君は台本を開くと、
とある”ト書き”部分を指差しながら
ヒノ君
「これ、見てみ。『遺族たちが、ぞろぞろと部屋に入ってくる』って。」
僕
「うん・・・え?これって・・」
ヒノ君
「そうや、この遺族 ”たち” が、俺ら5人や。」