演出家
「はい、やめ!」
演出家の声がスタジオ内に轟く。
演出家
「よし、決まりました。
男性の合格者は・・・
ヒノ君。」
・
・
・
やっと終わった・・・
全身の力が一気に抜け落ちる。
張りつめていた緊張の糸がゆっくりと切れた。
怖かった。
この3日間は、本当に怖かった。
一瞬一瞬、何が起こるか分からない恐怖。
周りの人たちのレベルの高さ。
異様とも言えるストレッチレディのポテンシャル。
そして・・・演出家の圧倒的な存在感。
何の武器も持たない
いや、何一つとして
持ち合わせていない僕にとっては
丸腰で、戦地に繰り出したのと一緒。
必死に考えて
必死にしがみついて
時には人を欺こうとして
何とか、最後まで
生き残ることだけはできたのかもしれない。
しかし・・
“勝ち残る”ことは出来なかった。
でも・・
最後に勝ち残ったのが、
“ヒノ君”なのは納得できた。
意図の分からない
オーディションの連続だったけれど、
最後に選ばれるのは
やっぱり「本物の役者」なんだと。
演出家
「そして、」
・・そして?
演出家
「もう一人、カサハラ君。」
え?
演出家
「以上、女性1名、男性2名を合格とします。」
パチパチパチパチ・・
スタジオ内はゆっくりと拍手に包まれる。
僕は、何が何だかわからないまま
スタジオの中央に立ち尽くした。