SEARCH

スタジオ内はゆっくりと拍手に包まれた




演出家
「はい、やめ!」




演出家の声がスタジオ内に轟く。


演出家
「よし、決まりました。
男性の合格者は・・・







ヒノ君。」










やっと終わった・・・


全身の力が一気に抜け落ちる。


張りつめていた緊張の糸がゆっくりと切れた。


怖かった。


この3日間は、本当に怖かった。


一瞬一瞬、何が起こるか分からない恐怖。


周りの人たちのレベルの高さ。


異様とも言えるストレッチレディのポテンシャル。


そして・・・演出家の圧倒的な存在感。



何の武器も持たない


いや、何一つとして
持ち合わせていない僕にとっては


丸腰で、戦地に繰り出したのと一緒。


必死に考えて

必死にしがみついて

時には人を欺こうとして


何とか、最後まで
生き残ることだけはできたのかもしれない。



しかし・・



“勝ち残る”ことは出来なかった。



でも・・



最後に勝ち残ったのが、
“ヒノ君”なのは納得できた。



意図の分からない
オーディションの連続だったけれど、



最後に選ばれるのは
やっぱり「本物の役者」なんだと。





演出家
「そして、」




・・そして?



演出家
「もう一人、カサハラ君。」




え?



演出家
「以上、女性1名、男性2名を合格とします。」




パチパチパチパチ・・


スタジオ内はゆっくりと拍手に包まれる。



僕は、何が何だかわからないまま
スタジオの中央に立ち尽くした。

28 件
〈 5 / 7 〉
カサハラケント
カサハラケント (笠原賢人) 1988年5月17日生まれ 新潟県新発田市(旧紫雲寺町)出身 2011年、大学を卒業後、 役者・絵描き・クリエイター活動を開始。 役者としては、 主に舞台(40本以上)やCM等で活動。 絵描き・クリエイターとしては、 個人や企業・行政から依頼多数。 横浜の商業施設でのグッズ販売に、 ZeppTokyoで開催されたファッションイベントでは 自身作成のロゴがメイン採用。 2019年には、 地元新発田市の図書館で個展も開催。 また、2018年からは 新発田市と共同でプロモーションムービーを制作。 2021年に高校生とともに企画・制作したCMは 「新潟ふるさとCM大賞」で準グランプリを獲得。 その他にも、 舞台やコントライブの脚本や、 人気バンドユニットの小道具制作など 幅広くクリエイター活動を展開。 将来の夢は、 「新発田で映画を撮る」こと。 そして、全国の人に 「新発田」を「しばた」と 読んでもらえるようになること。