演出家
「では、みなさん覚えましたね。
そうしたら、君。順番に“駅名”8個を全部言ってみて。」
そういって演出家は、
一番端に座っていた男性を指名した。
男性
「は、はい!」
男性は慌てながら立ち上がり、
ゆっくりと駅名を順番に述べ始めた。
男性
「恵比寿・・池袋・・えーっと・・銀座」
演出家
「違います。」
男性
「え・・!?」
男性は顔面蒼白になりながら、
再び床に腰を下ろした。
男性
「はい、残念でした。じゃあ次、隣の女性どうぞ」
女性「はい!」
今度は、
その男性の横に座っていた女性が指名された。
女性はその場に立ち上がると・・
「恵比寿、池袋、新橋、荻窪、銀座、新橋、池袋、高田馬場。以上です」
と、スラスラと全ての駅名を述べきった。
おおおおおぉぉ・・!!!
周りのみんなも、
その女性の堂々たる姿に驚きを隠せなかった。
演出家
「はい、お見事です。じゃあ君、好きな”駅名”を一個追加していいよ」
え?
女性
「あ、はい、じゃあ渋谷で・・」
え!?この展開・・・
まさか・・ここからどんどん駅名が増えていく感じ!?
演出家
「はい、じゃあ隣の次の人。
“渋谷”も追加して順番に駅名をお願いします。」
次の人
「は・・はい・・」
やっぱりそうだ!
え、これ順番に回ってくるとしたら・・
自分の番が来るまでに、
駅名が10個以上増えることになる・・!
いや、でも路線図を
絵に描いて覚える作戦があれば
いくつ駅名が増えようが
きっと大丈夫だ・・!!
絶対に、成功して見せる・・!
そして演出家は、
隣へ隣へと順番に指名していき・・
成功した人は自分の“好きな駅名”を追加し、
失敗した人がいたときは、演出家が“新しい駅名”を追加していき・・
僕の順番が回ってくる頃には、
駅名はすでに20個を超えていた。
しかし・・
僕はどれだけ駅名が増えようと、
頭の中に描いた路線図の中で電車を走らせ続けて・・
「100%イケる」という自信満々の状態で、
自分の番が来るのをまだかまだかと待ち続けた。
が…
演出家
「はい。時間もかかるので、記憶力ゲームはここまでにします。
じゃあ次は演技審査に入りますね。」
・
・
・
え!?
まさかの事態が起こった。
なんと・・
記憶力ゲームは、
僕の番まで回ってこなかったのである。
なんでやねん・・・
こんなに“自信のある審査”は他になかったのに・・
ここまでの審査では
演出家に悪い印象ばかりを残し続け、
いざという勝負時には、
まさかの勝負すらさせてもらえないという・・
「これはさすがに・・
”ご縁がなかった”のかもな・・」