演出家
「では記憶力ゲームをやるにあたって、まず最初に多数決を取ります。では、”駅名”と”フルーツ”どちらがいいですか?」
「え?なんだ、この質問は・・・?」
突然の投げかけられた質問に、
僕ら参加者のみなは、一瞬あっけにとられた。
えーっと・・これは・・
とりあえず、
“記憶力ゲーム”をする訳だから・・・
想像しやすい方を
選んだ方が良いんだよね・・・?
だとしたら・・・
ど、どっちが良いんだ?
参加者のみなが、
それぞれに止まりかけの思考回路を
フル回転させているのが分かる。
「“駅名”って形を想像でしにくいから、
フルーツの方が覚えやすいかな・・・」
「いやでも、フルーツ普段から
あんまり食べないからそんなに種類は知らないぞ・・・」
僕もどちらにするか決めかねていると・・
演出家
「はい、では多数決をとります。まず駅名が良い人は?」
すると一人が手を挙げた。
演出家
「はい、じゃあ、“駅名”は1人ね。」
この様子だと、
フルーツに決まりそうだな・・
演出家
「では、フルーツが良い人?」
その他全員が
一斉に手を挙げた。
演出家
「はい、では今回の“記憶力ゲーム”のお題は
”駅名”にします」
な、なんでや!?
再び会場がざわつき始める。
演出家
「役者と言うものは、舞台の稽古中や撮影の現場などで演出家や監督に指示されたことを瞬時に把握し、すぐさま実践できる能力が必要になります。この“記憶力ゲーム”では、現場と同じようなプレッシャーのかかった中で、しっかりと冷静に対応できるかを見せてもらいます。」
僕
「な、なるほど…これはただのゲームではなく、ちゃんとした”審査”になっているんだな・・」
今回、初めて、演出家から
予め審査の意図を説明してもらえた。
の、だが…
「柔軟体操」や「演技審査」
「調べてきたもの」の発表とは違い、
「記憶力ゲーム」なる審査は、
最初に意図を説明されようが、あとからされようが・・
状況は大して変わらない。
むしろ、
その説明を受けたことで逆に・・
役者としての”適正”を審査されるという
更にプレッシャーをかけられる形となってしまったのだ。