僕は、何もできなかった。
いや・・
何をしていいのか
全く分からなかった。
完全ヤンキー
「いやぁ~今の稽古はむずかったわ~!俺らセリフもないし、どういう風に立ち回っていいか、全然わからへんな~」
カサハラ
「一昨日“代役”をやって、セリフのある役も、もちろん大変だってことは分かったんですけど、“セリフのない役”がこんなにも難しいとは思わなかったですね・・」
完全ヤンキー
「まぁ、そこが、演技の難しい所でもあり面白いところでもあるんやけどな~。もうちょっといろいろ考えていかなアカンな~。・・・あ、そや」
カサハラ
「ん、なんですか?」
完全ヤンキー
「ケントの立ち位置なんやけどな、あの場所やとお客さんからお芝居が見にくい位置になってまうから、少し変えた方がええかもな?」
カサハラ
「え?どういうことですか?」
完全ヤンキー
「舞台上には、上手(かみて)、下手(しもて)、舞台面(ぶたいっつら)、舞台奥(ぶたいおく)って、あってな、ケントがさっき芝居中に立ってた位置は、舞台面のど真ん中やってん~」
カサハラ
「あ・・なるほど・・」
完全ヤンキー
「そう、あの位置にケントが立ってるとな、メインのキャストのお芝居が被ってしもて、お客さんがお芝居を観にくくなってしまうんや」
カサハラ
「確かに・・それは、ダメですね・・」
完全ヤンキー
「せやから、ちゃんと”役”になりながらも、そういう部分は意識してお芝居しないとアカンかもな~」
カサハラ
「そうですね・・ありがとうございます!」
さすが完全ヤンキーさん。
舞台役者の先輩として、
いろいろなことを丁寧に教えてくれる。
本当に頼りになる人だ。
すると・・
「ズシン、ズシン・・・」
演出家が戻ってきた。
演出家
「では先ほどのシーンをもう一度やります。」