2011年、春。
僕は、フリーターになった。
“勝負のオーディション”で
声を掛けてくれた5社からの誘いをすべて断り、
就職活動もしないまま大学も卒業した
”何も残らない”僕のもとに、
再び現れたのは
あの元アイドルのNさんだった。
Nさんは1年前のあの時と同じように
オーディション雑誌を持参し
僕に
「深夜ドラマの主役を募る
新人発掘オーディション」にエントリーしよう!
と、強く後押しをしてくれた。
そのNさんの想いが僕は本当に嬉しく、
自問自答を続ける毎日の中で
”Nさんの期待に応えたい”という、
一つの確かな答えを、
僕は見つけることができたのであった。
「もう、自問自答の毎日は終わりだ。」
僕の答えは・・・・
“Nさんの期待に応えること”
僕はその日、
Nさんが用意してくれた
“深夜ドラマの主役を募る
新人発掘オーディション”
のエントリーシートと
最新号のオーディション雑誌を持ち帰り
早速、エントリーシートを
郵送する準備に取り掛かることにした。
「確かこの辺りに・・」
記憶を頼りに、
机の引き出しの中をあさってみると、
中から“未使用の封筒”が出てきたので、
僕はその中に、
エントリーシートを入れることにした。
のだが・・
「ちゃんと綺麗な封筒にいれて送るのよ!
そこからすでに勝負は始まってるからね!」
という、
Nさんの言葉が、
頭をよぎった。
そうだった・・
エントリーシートを封筒に入れる時点から
オーディションの勝負は始まっているのだ・・。
僕が引き出しから取り出した封筒は、
一般的な「茶封筒」、
A4サイズのエントリーシートは
4つ折りにしなければ入らない。
「いやいやいや・・・
こんな大切なエントリーシートをこんな“一般的な茶封筒”に、
しかも小さく“折り畳んで入れる”なんて・・
さすがに縁起が良くない気がするな・・」
ドラマのオーディションだというのに
縁起(演技)が良くないというのもアレだし・・
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「よし!ここは、ちゃんとした封筒を買って、
エントリーシートを郵送することにしよう!」