早く確認したい・・・
“エントリーシートの締切日”を、
帰って早く確認したい!!!
そうだ・・・とりあえず、
帰りに封筒と切手を買って
すぐに郵送できるようにしておこう・・・!
もし、締切が今日だったとしても
郵便局の営業時間には
ギリギリ間に合うはずだ・・・
とりあえず、締切だけは
過ぎていないでおくれ・・・
焦りからくる
体中の震えが止まらない。
いつもなら
手慣れた接客もおぼつかない。
注文伝票に書く文字も、
手の震えで読めたものではない。
後輩
「カサハラさん、この注文、何て書いてるんですか?」
僕
「察しろ!!」
もう何も、手が付かない。
勤務時間よ、早く終われ。
いや、場合によっては・・
もう終わらなくても、いいのかもしれない。
いや、それはよくわからない。
とにかく僕は、時計の針が
「退勤時間」を指し示すまで、
秒針がゆっくりと周回するのを
ギッと睨み続けた。
そして・・・
その時は、やっと訪れた。
退勤時間をまわった瞬間、
僕はアルバイト先を飛び出し、自宅へ直行。
自転車をこぐ足が絡まりそうになりながら、
いつもの帰り道を、倍速で走り抜け
アパートに到着するやいなや、
備え付けの駐輪場に自転車を放り投げ、
鍵をこじ開け、扉を勢いよく開け、
そのまま室内になだれ込む。
そして、気づく。
「封筒と切手、買い忘れたぁあああ!!」
何回忘れりゃ気が済むんだ俺!
いや、もういい!
とりあえず、今は締切日の確認だ!
エントリーシートを手に取る。
そして、
汚さないように・・
折れないように・・
そ~っと、中を開く。
締切日は・・・
もう過ぎてるー!!!!!
愕然。
よもやよもやの、大愕然。
僕は、膝から崩れ落ちた。
「やってしまった・・・」
これは、今までの人生の中でも
最大級のやらかしだ。
頭を抱える、僕。
頭蓋骨が砕けるかの如く強さで
頭を抱える、僕。
ぬおぉおおおおお・・・
「はっ!!」
僕は、
砕きかけた頭を上げた。
そして、その目には
まだ光が煌々と輝いていた。
「いや!違うよ!ここでこそポジティブだ!
ここでポジティブになってこそ、この俺じゃないか!」
これまで幾度の修羅場を
潜り抜けてきたこの俺。
こんなところで
諦めてしまうはずがない。
「まだ何とかなるはずだ・・!」
地獄のほとりで、
ポジティブシンキング。
「そうだよ!締切が過ぎたからって・・
すぐに選考が始まって、すぐに結果が出るもんじゃないはず!!」
「エントリーシートの到着が少し遅れたって、きっと選考してもらえるでしょ!」
「そうだよ、正義のHEROってヤツは、いつも遅れて登場するものだ・・・!!」
「そういうHEROを、今のテレビ業界は求めているはずなんだ!」
「それに、あのタレントの“風見しんごさんも、
前にバラエティ番組でこう言っていた・・
『大事なオーディションに遅刻して行ったけど、それがウケて、合格になった』って・・・!」
「ありえるよ・・全然ありえる話だよ!・・よっしゃ、今から郵送しよう!」
止まらない!
前向きな考え方が止まらない!
「よっしゃあ!!行ける!!」
そう言うと、
ポジティブシンキングに
服を着せたようなその男は
エントリーシートを片手に、
放り投げた自転車を持ち上げ、
それにまたがりコンビニへ直行。
封筒、切手、スティックのりを購入し
併設されているイートインスペースで、
宛名を書き込み、
のりで封をし、切手を貼り・・・
そのまま、近くのポストにイーン!
「よっしゃ!あとは吉報を待つのみだ!」
・
・
・
・
当然のことだが・・・・
吉報など、来るはずはなかった。
Nさんが、
持ちかけてくれた
“深夜ドラマの主役を募る
新人発掘オーディション”
は、あえなく書類審査で落ちてしまった。
というより、
僕の大きな過ちによって、
”審査”さえされていないだろう。