「え?これをやるの?!」
周りのみんなはざわつき始める。
それはストレッチというよりも、
もはやヨガのポーズ。
演出家
「はい、みなさんも同じポーズをしてくださいね」
ざわざわざわ・・
みなざわつきながらも、
それぞれストレッチレディと同じポーズを取ろうとする。
参加者の中には
体が柔らかく、
難なく同じポーズを出来る人もいれば・・
身体がガチガチに固く、
まったくそれができない人もいる。
僕は当然、後者だ。
演出家
「体が固い人多いね。真剣に演技に取り組みたい人なら普段から柔軟体操をして、
どんな役を与えられても上手く体を使える状態にしておくのが当然ですよね。体固い人は今すぐ帰っていいよ。」
ざわざわざわ・・
さらにざわつく会場。
僕の「不合格確定」の演出は
どんどんと増えていく。
その後もストレッチレディは
いくつもポーズを変えていき、
みんな必死にそれに食らいつく。
僕は、「気持ち」は折られながらも、
とりあえず「体だけ」は食らいついていった。
開始からおよそ30分後、
ひとしきりストレッチが終わると
僕は汗だくになっていた。
「き、きつすぎる・・
あらゆる筋という筋が切れてしまいそうだ・・」
演出家
「準備体操はこれで終わりね。
じゃあ、次のワークに入ります。」
これがまだ「準備体操」という。
次は何をやらされるのか・・
僕は恐怖と痛みで
身体がプルプル震え続ける。
演出家
「じゃあ、早速、何か調べてきた人は話してごらん。誰でもいいから」
突然のことに、みんなポカンとした。
「え?そんなこと、事前に伝えられてたっけ?」
ざわざわざわ・・
またみなざわつき始める。
先ほどまで、
体の柔らかさで得意げにしていた人たちも・・
目が泳ぎ始める。
「何か調べてきたことある人って・・
急にそんなこと言われたって、無理じゃない!?」
スタジオに沈黙が続いていると・・
演出家
「じゃあ、手本で、しゃべってみて」
というと、先ほどのストレッチレディが
「はい!」とみんなの前に立ち・・
「調べてきたこと」を話し始めた。
・
・
・
「このストレッチレディ・・
体の柔らかさだけでなく、しゃべりも流暢だ・・」
演出家だけではない。
このストレッチレディも只者ではない。
これは急に演出家に振られたのか!?
事前に「手本をやれ」と指示されていたのか!?
いや、だとしても・・
これほどまでに理路整然と、
そして、みんながのめり込むような
トークテーマに話し方。
その凄まじいポテンシャルに、
僕は開いた口がふさがらなかった。
ストレッチレディ
「以上になります。」
パチ・・パチ・・パチ、パチ、パチパチパチパチ!
スタジオ中に
自然と拍手が巻き起こった。
「凄い、凄すぎるやん!ストレッチレディ!」
演出家
「なぜ、調べてきたものを話してもらうのか、分かりますか?」
え?全く分からない・・
演出家
「役者は、作品の中で自分以外の“別の誰かの人生”を演じることになります。
そのためには、普段からも自分の知らない”新しい知識”を身につける癖が必要になります。」
な、なるほど・・・
演出家
「本当に演技を真剣にとりくみたいのなら普段から当然、
“調べること”をみなさんもやっていますよね?」
みんなは、
開いた口がふさがらなかった・・