他の4人から少し遅れて
僕も階段を上がり、
オーディション会場の外へ出た。
春の心地良さも少し通りすぎ、
東京の夕方は生緩い風が吹いている。
多くの車が行き交う大通り、
横を見れば高いビルが
ずらっと立ち並んでいる。
「これが東京か・・・」
”そんなに、甘くはないよ”
そう、言い放たれたような気がした。
僕は、行きと同じ
“慣れない都営地下鉄”に乗り込み
それから
“慣れ親しんだJR”に乗り換えて
車窓からだんだんと薄暗くなってゆく
街並みを眺めていると
気が付けば
最寄りの駅に到着していた。
そこには、
いつもの日常が溢れている。
“Nさん”と一緒に働いている
アルバイト先の前を通り過ぎて
いつものコンビニで
いつものお弁当を買って
自転車に乗り
辺りが夜を迎えた頃に、帰宅。
テーブルの上に
コンビニの袋を置いて
胸の中にしまい込んだ
いろんな感情を熱めのシャワーで洗い流した。
「明日は、朝からバイトか・・
明後日も、明々後日もバイトだ・・」
夢から覚めた僕の前には、
ただただ逃れられない現実だけが横たわっている。
浴室から出て
頭もまだ濡れたまま
コンビニの袋の中から
お弁当を取り出した。
温めてもらったはずのお弁当は
すでに生ぬるくなっている。
それは、まるで僕のようだった。
「ブー、ブー・・」
テーブルの前に
腰を下ろしたとき。
スマホに一通のメールが届いた。
「Nさんかな・・?
今日オーディションってことも伝えてあったし・・」
僕はスマホを手に取り
メールの内容を確認した。
『カサハラケント様。
2次審査通過おめでとうございます。
明日から3日間、最終審査を開催いたします。
つきましては・・・』
え・・・?
「あ、明日からのバイトのシフト、どうしよう・・」
僕は予想外過ぎる展開に・・
“正しい感情”を取ることが
この瞬間できなかった。
つづく・・
あの演出家、本当に一筋縄ではいかない人で、きっと僕が階段から前の組の様子をチェックしていたことにも気づいていたんです・・汗。一人だけ半歩先を見ているようなそんな感じで終始、異様な雰囲気を醸し出していました・・焦。
次回!!
「絶対に終わった」と思った舞台のオーディションの最終審査50人に、まさかの残ってしまったカサハラ青年。まずは現実的な問題「明日から3日間のバイトのシフト調整」を片付けてから、勝負の最終審査1日目に向かう。2次審査を通過した猛者たちが一堂に集う中、カサハラ青年がオーディションでとった行動とは・・・
お楽しみに~!
カサハラケント
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