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残念だったね



最善の準備は整った。

あとは“楽しんで”やるだけだ!



演出家
「ではこれから演技審査に入ります。
演技審査の内容ですが・・」




「よし・・・来い!」



演出家
「皆さんは今、飛行機に乗っています」



え?・・・飛行機?


演出家
「その飛行機の、片方の翼のエンジンが爆発しました」



え?エンジンが爆破・・!?
船が沈没じゃないの!?


演出家
「飛行機は海に向かって急降下していきます。はいどうぞ。パン!」



え!?始まっちゃった!?
やべぇ、どうしよう!どうしよう!


僕は、予想外の展開に、
瞬時に思考停止



すぐに演技をスタートして、
審査員の目線を少しでも長く
こちらに向けさせるという作戦だったが・・



僕は皆と同じように

思いっきり
「ポカンと硬直」してしまった。





え、やばいやばいどうしよう!

船と飛行機ってシチュエーションが違い過ぎる・・

飛行機の中に逃げ惑うスペースなんてないし・・

そもそも、座席に座っている状況なの?

シートベルトとかしてる状況なの・・?


ダメだ!頭が回らない!!
どうしよう!どうしよう!



すると、僕以外の4人は、
だんだん状況を理解しはじめ・・・

大きな声で叫び始める者や
神様に懇願したり者など・・


4者4様の
演技をスタートした。


やべぇ・・もうみんな演技し始めてる!
どうしよう!どうしよう!



僕はその様子を傍に感じながら
さらに焦る、焦る、焦る。



「もう叫んでる人もいるし・・
助けを求めてる人もいるし・・
神に懇願している人もいるし・・

今から同じような演技をしても
二番煎じになるから絶対にダメだ・・

でも、他の演技パターンが全然思いつかない!!」



どうしよう・・どうしよう・・


じっと固まったまま動けずにいると・・




演出家
「パン!はい、終了です」




「うわ・・・終わった・・・」




僕の挑戦は、終わった。



最後は楽しむどころか

「何もできずに」終わった。





演出家
「はい、おつかれ様でした。ちなみに今回のオーディションの最終審査には50人残ってもらいます。結果は近日中に連絡します。ちなみに最終的な合格者は男女一人ずつの計2名の予定です」



ふ、2人・・・


5人
「ありがとうございました。」




オーディションを終えた同じ組の5人が
そろって階段を上って帰ろうとしたとき



演出家
「76番君」




え・・?僕?


振り返ると
演出家がこちらに歩いてきた。




「は、はい・・」



演出家
船が沈没すると思ってたでしょ




「え?」



演出家
残念だったね



そう言い残して

“ガタイのいい”
“いかにも業界人っぽい”演出家は


審査員席に戻っていった。


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カサハラケント
カサハラケント (笠原賢人) 1988年5月17日生まれ 新潟県新発田市(旧紫雲寺町)出身 2011年、大学を卒業後、 役者・絵描き・クリエイター活動を開始。 役者としては、 主に舞台(40本以上)やCM等で活動。 絵描き・クリエイターとしては、 個人や企業・行政から依頼多数。 横浜の商業施設でのグッズ販売に、 ZeppTokyoで開催されたファッションイベントでは 自身作成のロゴがメイン採用。 2019年には、 地元新発田市の図書館で個展も開催。 また、2018年からは 新発田市と共同でプロモーションムービーを制作。 2021年に高校生とともに企画・制作したCMは 「新潟ふるさとCM大賞」で準グランプリを獲得。 その他にも、 舞台やコントライブの脚本や、 人気バンドユニットの小道具制作など 幅広くクリエイター活動を展開。 将来の夢は、 「新発田で映画を撮る」こと。 そして、全国の人に 「新発田」を「しばた」と 読んでもらえるようになること。