「今日に向けて約3か月間、
やれるだけのことはやってきたつもりだ。
“10月オーディション組”に入るためには、
ここで必ず上位20位以内・・・・
いや、10位以内に入って見せる!!!!」
そして、
僕はその日の審査会で・・・
“自分でも納得のできる”
パフォーマンスを披露することができた。
「今やれるだけのことは、
とりあえず出来たはず・・・」
審査会を終えると・・・
確かな手応えを感じ、
グッとこぶしを握り締め・・
僕は充実感に浸りながら
帰路につくことにした。
が・・
「この数か月間、少し気を張りつめすぎたから、
ちょっと気分転換でもしようかな・・・」
僕は、帰りの電車の中でそう思いたち、
そのままぶらりと電車の旅に出ることにした。
僕はよく、個人的に
「何かを達成したあと」や
「やりきったあと」は・・
ぷらっと、どこか遠くへ行きたくなる。
その時、乗っていたのは”JR東海道線”。
僕は最寄りの駅で降りず、
そのまま2時間ほど電車に揺られ
終点 “熱海駅” まで向かった。
熱海駅を降りたのは、
この日が初めてのこと。
駅前の商店街を散策したり、
海の方まで歩いてみたり、
腰を下ろして
海を眺めてみたり。
ボーっとしているうちに、
気づけば、辺りは暗くなっていた。
「これから帰るのも、夜遅くなるし・・」
その日はそのまま、
熱海で一泊することにした。
唐突な思い付きだったので、
急遽何件か宿を尋ねてみたけれど、どこも満室。
この日は、金曜の夜だった。
「ここでダメなら・・」
と、最後に海のすぐそばの
かなり“古びた宿”に入ってみた。
「今日って、部屋まだ空いてますか?」
「一部屋ご案内できますよ」
「そしたら、お願いします。」
なんとか、
宿にありつけることができた。
「やはり、何事も諦めなければ
最後にチャンスは待っているんだな・・・」
外観もさることながら、
内装もなかなか古びていた、そのお宿。
案内された部屋も、小さめの大浴場も
なんだか昭和の時代にタイムスリップしたかのようだった。
素泊まりだったので、
コンビニで簡単な夜食とビールを買って
部屋でひとり晩酌。
僕はあんまりお酒が強くないので、
飲み終わったあとは、そのまま倒れこむように布団の中に。
「なんだか今日は、不思議な1日だったな・・」
夢と現実が交わっているような
なんとも心地の良い気分のまま・・・
僕は、眠りについた。