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”表現しなきゃいけない”と思い込んでいる



演出家
なるほどね。



オーディション組の感想を聞いた後、
演出家はゆっくりと口を開いた。


演出家
本役メンバーはすでに1週間稽古をしているから分かるだろうけど、オーディション組はやはり、そうなると思ったよ。



カサハラ
「え?」



演出家
君たちオーディション組は、役者をどういうモノだと思っている?



え?


オーディション組
えーっと・・・




突然の演出家からの質問に、
僕らオーディション組は固まってしまった。




役者とは、何なのか・・?





演出家
まぁ、突然聞かれて、答えるのは難しいだろう。おそらく君たちが考えている”役者”というものは、いかに見ている人に分かりやすく”表現”できるかが大切だと思っているのでしょう?



確かに、見ている人がどんな状況か
分かりやすいように”表現する”ことは

とても大事なことだ・・


ド素人の僕でも、
その考え方は正しいと思う。




演出家
しかし、本当の”役者”というものは、違う



カサハラ
「え?!」



演出家
役者は、”表現” なんて、してはならないのだ



カサハラ
「な・・・なにぃーーー!?」




青天の霹靂だった・・!!



役者って、演技力で、表現力で、
見ている人に感動や、喜び、悲しみ・・

そんな、いろんな感情を
与えるものではないの・・!?




僕は今の今まで、役者とは
”そういうもの”だと、勝手に思っていた。


演出家は続ける。


演出家
きっと今の説明では分かりにくいと思うが、こう考えてごらん。君たちが演じている台本の“容疑者役”は、見ている人に何かを感じてもらおうと、普段から“表現”しながら、その人生を送っているのかい?




・・・ん?
どういうことだ?


オーディション組はみな
ポカンとした表情をしている。


演出家
じゃあ、もっとわかりやすくしてみよう。君たちは普段、誰かに何かを感じてもらおうと”
表現しながら”生活しているのかい?
君はどうだ?



カサハラ
「・・・いいえ・・そんなことを考えながら、普段生活はしないですね・・」



演出家
だろう?じゃあ何故、2回目の”冒頭のト書き”のシーン稽古では、その容疑者役の人生を”表現“してしまったんだい?



カサハラ
「そ、それは・・・」



演出家
それは、役者は”表現しなきゃいけない”と思い込んでいるからだ



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カサハラケント
カサハラケント (笠原賢人) 1988年5月17日生まれ 新潟県新発田市(旧紫雲寺町)出身 2011年、大学を卒業後、 役者・絵描き・クリエイター活動を開始。 役者としては、 主に舞台(40本以上)やCM等で活動。 絵描き・クリエイターとしては、 個人や企業・行政から依頼多数。 横浜の商業施設でのグッズ販売に、 ZeppTokyoで開催されたファッションイベントでは 自身作成のロゴがメイン採用。 2019年には、 地元新発田市の図書館で個展も開催。 また、2018年からは 新発田市と共同でプロモーションムービーを制作。 2021年に高校生とともに企画・制作したCMは 「新潟ふるさとCM大賞」で準グランプリを獲得。 その他にも、 舞台やコントライブの脚本や、 人気バンドユニットの小道具制作など 幅広くクリエイター活動を展開。 将来の夢は、 「新発田で映画を撮る」こと。 そして、全国の人に 「新発田」を「しばた」と 読んでもらえるようになること。