な・・・
なんか分かってきたような・・・
演出家
「少しわかってきたかな?1回目の時の君たちは、暗闇の中、手錠を掛けられた状況から、必死になって脱出する方法を考えて行動しただろう?そこに”表現”はあったのかな?」
カサハラ
「いいえ・・!あの時は、自分の命が危険にさらされているかと思い、そんなことは考えられませんでした・・・」
演出家
「そういうことだよ。君たちはあの瞬間、“表現すること”をせず、その場所で、その状況で、その役の人生を“生きる”ことが出来たのだよ。」
カサハラ
「な、なるほど・・!!」
演出家
「それが、本当の“役者”というものだよ。」
ガッツーーーーン!!!!
僕は後頭部を思いっきり
鈍器で殴られたかのような衝撃を覚えた。
そ、そうか・・
そういうことだったのか・・
演出家
「あと、もう一つ。君たちは見ている人やお客さんの存在を認識してはいけない。お客さんに何かを伝えようとはしてはいけない。」
ふむふむ・・・
演出家
「お客さんは、観覧者ではない。“目撃者”なのだ。」
カサハラ
「お客さんは・・・“目撃者”・・・」
僕はその言葉に、
強く胸を打たれた。
演出家
「その考え方を心に置いた状態で、10分後の稽古に臨んでください」
オーディション組
「は、はい・・!」
そう残して、演出家は
スタジオの外へ続く階段を上っていった。