ヒノウエさん
「では、順番に共有していきましょう。まず、あなたから」
そう言うと、
ヒノウエさんは遺族A役の女性を差した。
すると遺族Aさん(女性)は
メモ帳を取り出し・・
遺族Aさん
「私は、年齢的にも被害者の親戚役がバランス良いと思ったので、”従妹の上原マサミ”という役を考えてきました。マサミは現在、東京都在住の会社員で、被害者とは小さい頃から・・・」
つらつらと
”遺族A”のバックボーンを話していった。
それは、
遺族Aさん自身のキャラクターと大きく相違はなく、
見た目的にも違和感を持たれないような絶妙な設定だった。
カサハラ
「(たった一晩でここまでの設定を考えているなんて・・・凄すぎる・・)」
遺族Aさん
「現時点では、こんな感じです。私も、他の遺族役のみなさんと関係性を深めたかったので、ちょうど良かったです」
ヒノウエさん
「アリガトウゴザイマス。では、次はあなた」
ヒノウエさんは間髪入れず、
遺族B役のもう一人の女性を差した。
遺族Bさん
「はい、私も被害者の親戚として考えていて・・・・」
遺族Bさんも遺族Aさんと同じように
メモしていた役の設定を淡々と説明してゆく。
遺族Aさん
「じゃあ私たちは、姉妹って設定にした方が自然かもしれませんね」
遺族Bさん
「そうですね、じゃあ私は姉の”アケミ”、遺族Aさんは妹の”マサミ”ということにしましょう」
カサハラ
「(す、凄い・・・遺族役のバックボーンが繋がってゆく・・・)」
それぞれに与えられた”遺族たち”という配役に、
“命が宿る瞬間”を僕は目の当たりにした感覚だった。
ヒノウエさん
「姉妹の関係性、イイデスネ。では、次は完全ヤンキーさん」
そう言って、
今度は完全ヤンキーを差した。
完全ヤンキー
「俺は、結構離れた親戚って言う設定を考えてたかな~。もちろん被害者とは面識があるし、話したこともあったりするけど、そこまで深い関係性がなくて、今回被害者を殺した”犯人”が誰なのか発覚するってことで、そっちに興味が湧いて、ここに来たって感じかな~」
カサハラ
「(な、なるほど・・・なんか、その設定もすごく深いな・・・確にそういう人物が”
遺族たち”の中に紛れていたっておかしくない訳だし・・・その発想力は、さすが完全ヤンキーだ・・)」
ヒノウエさん
「ナルホド、それは面白い設定デスネ。では、カサハラさん」
そして、
ヒノウエさんが僕を差した。
カサハラ
「(ヤバイ・・・)えーっと・・・」
ヒノウエさん
「ドウシマシタ?」
僕はいつものように、
上手くこの負の状況を回避しようと頭を回転させたが・・
カサハラ
「すみません、バックボーン何も考えていませんでした・・」
何も思いつくことができなかった。
ヒノウエさん
「え?何も考えてこなかったんデスカ?」
カサハラ
「す、すみません・・・」
ヒノウエさん
「ソウデスカ。まぁ、カサハラさんが今回初めての舞台出演と言うことは、先ほど演出家から聞いていましたから、何をして良いのか分からないのは、仕方ないコトではアリマス。でも・・・」
カサハラ
「でも・・・?」
ヒノウエさん
「カサハラさん。アナタ、シッカリ台本を読み込んできましたか?」
カサハラ
「・・・・え?」
ヒノウエさん
「被害者の名前はナンデスカ?」
ヒノウエさんから
唐突な質問を浴びせられた。
カサハラ
「え、えーっと・・・」
ヒノウエさんから
「被害者の家族である”3人の遺族役”の名前はナンデスカ?」
矢継ぎ早に、
次の質問が投げつけられる。
カサハラ
「あ、あー・・」
ヒノウエさん
「カサハラさん。アナタ、被害者の”遺族”役を演じるんですよね?その”遺族”が、被害者の名前も、その被害者の家族の名前も分からないまま、舞台に立つのですか?」
カサハラ
「そ、それは・・・」
ヒノウエさん
「カサハラさん。そんな人間は、この世に、存在シマセンヨ」