SEARCH

遺族のバックボーン



演出家と話し終わると、
そのままヒノウエさんは僕らの方に歩いてきた。

ヒノウエさん
遺族役のオーディション組のミナサン、更衣室に入ってください



カサハラ
「・・更衣室に?」



ヒノウエさんの様子は、先ほどまでと違い、
急に冷淡な感じに変わっていた。


カサハラ
「(どうしたんだろう・・・?)」



少し戸惑いながらも、
僕らオーディション組はヒノウエさんに従い、

スタジオの横の更衣室に入った。


その更衣室は、オーディションの時にも
着替えで活用した一室。


更衣室と言うよりも、
物置部屋という印象に近い、

暗くて狭い部屋だ。


そこにヒノウエさんは、
僕たちオーディション組4人を引き連れて入っていった。


完全ヤンキー
急にどうしたんや?



更衣室の扉を閉じると、
完全ヤンキーがヒノウエさんにそう尋ねた。


・・・・・

ヒノウエさんは返答しない。


完全ヤンキー
さっきまであんなに和気あいあいと話してたのに、どうしたんや?



するとヒノウエさんは、
覇気のないような冷たい目をしながら


ヒノウエさん
今は稽古中です。関係ない会話は慎んでください



ヒノウエさんの突然の返答に、
僕ら4人は一瞬おののいた。


完全ヤンキー
そ、そやな。スマンスマン・・



ヒノウエさんは4人を見回した後
ゆっくりと口を開いた。


ヒノウエさん
先ほど演出家から、”遺族たち”同士で演技プランについて確認してくるよう指示を受けました。なので、ミナサン、それぞれの”遺族”のバックボーンを教えてください。



カサハラ
「バックボーン?」



ヒノウエさん
そうです。昨日ミナサンは”遺族たち”に配役されたと聞きました。台本もシッカリ読み込んできたハズです。それぞれが固めてきた”遺族”のキャラクターを共有し合って、それぞれの関係性を確認しましょう。




な、なるほど・・

こうやって、役同士の関係性を深めていくのか・・


でも・・・


カサハラ
「(ヤバイ・・”遺族”のバックボーンなんて、全く考えてない・・・)」



僕は、
前日に”遺族たち”という
アンサンブルでの出演と聞かされてからは・・


気を楽にして、
全く台本を読み込みこともせず、


ましてや”遺族”のバックボーン
考える必要があるなんてことも・・


全く想像をしていなかった。

22 件
〈 4 / 6 〉
カサハラケント
カサハラケント (笠原賢人) 1988年5月17日生まれ 新潟県新発田市(旧紫雲寺町)出身 2011年、大学を卒業後、 役者・絵描き・クリエイター活動を開始。 役者としては、 主に舞台(40本以上)やCM等で活動。 絵描き・クリエイターとしては、 個人や企業・行政から依頼多数。 横浜の商業施設でのグッズ販売に、 ZeppTokyoで開催されたファッションイベントでは 自身作成のロゴがメイン採用。 2019年には、 地元新発田市の図書館で個展も開催。 また、2018年からは 新発田市と共同でプロモーションムービーを制作。 2021年に高校生とともに企画・制作したCMは 「新潟ふるさとCM大賞」で準グランプリを獲得。 その他にも、 舞台やコントライブの脚本や、 人気バンドユニットの小道具制作など 幅広くクリエイター活動を展開。 将来の夢は、 「新発田で映画を撮る」こと。 そして、全国の人に 「新発田」を「しばた」と 読んでもらえるようになること。