演出家と話し終わると、
そのままヒノウエさんは僕らの方に歩いてきた。
ヒノウエさん
「遺族役のオーディション組のミナサン、更衣室に入ってください」
カサハラ
「・・更衣室に?」
ヒノウエさんの様子は、先ほどまでと違い、
急に冷淡な感じに変わっていた。
カサハラ
「(どうしたんだろう・・・?)」
少し戸惑いながらも、
僕らオーディション組はヒノウエさんに従い、
スタジオの横の更衣室に入った。
その更衣室は、オーディションの時にも
着替えで活用した一室。
更衣室と言うよりも、
物置部屋という印象に近い、
暗くて狭い部屋だ。
そこにヒノウエさんは、
僕たちオーディション組4人を引き連れて入っていった。
完全ヤンキー
「急にどうしたんや?」
更衣室の扉を閉じると、
完全ヤンキーがヒノウエさんにそう尋ねた。
「・・・・・」
ヒノウエさんは返答しない。
完全ヤンキー
「さっきまであんなに和気あいあいと話してたのに、どうしたんや?」
するとヒノウエさんは、
覇気のないような冷たい目をしながら
ヒノウエさん
「今は稽古中です。関係ない会話は慎んでください」
ヒノウエさんの突然の返答に、
僕ら4人は一瞬おののいた。
完全ヤンキー
「そ、そやな。スマンスマン・・」
ヒノウエさんは4人を見回した後
ゆっくりと口を開いた。
ヒノウエさん
「先ほど演出家から、”遺族たち”同士で演技プランについて確認してくるよう指示を受けました。なので、ミナサン、それぞれの”遺族”のバックボーンを教えてください。」
カサハラ
「バックボーン?」
ヒノウエさん
「そうです。昨日ミナサンは”遺族たち”に配役されたと聞きました。台本もシッカリ読み込んできたハズです。それぞれが固めてきた”遺族”のキャラクターを共有し合って、それぞれの関係性を確認しましょう。」
な、なるほど・・
こうやって、役同士の関係性を深めていくのか・・
でも・・・
カサハラ
「(ヤバイ・・”遺族”のバックボーンなんて、全く考えてない・・・)」
僕は、
前日に”遺族たち”という
アンサンブルでの出演と聞かされてからは・・
気を楽にして、
全く台本を読み込みこともせず、
ましてや”遺族”のバックボーンを
考える必要があるなんてことも・・
全く想像をしていなかった。