ストレッチレディに誘導されながら
僕たちオーディション組も入り口から劇場に入り
ロビーへ続く階段を上って行った。
いつもの稽古場では
階段を下りて”スタジオ”へと入っていた。
この2週間、その繰り返しだったからか
“階段を上って”劇場に入ることにすら、変な緊張感が体を走る。
「(完全にこの雰囲気に飲まれてしまっている・・・)」
自分でも意識できるくらい
身体がガチガチに固まってしまっているのが分かる。
「(こんな状態で、果たして大丈夫なのか・・・2日後に迎える本番・・ダメだ、想像しただけで吐きそうになる・・)」
過去にこれほどまで
緊張したことがあっただろうか・・
どこかいつも
”なんとかなるだろう”
という安易な気持ちを
持ち合わせながら僕は生きてきた。
小さい時からいつも
”なんとかなってきた”。
遊びも勉強も、なんとかなって。
部活も受験もなんとかなって。
上京して、一人暮らしをはじめても
なんとかなって。
養成所での試練も困難も
最終的には、なんとかなって。
そして・・
この舞台のオーディションすらも、
なんとかなって。
でも・・
この舞台の
”稽古”が始まってから・・・
突如、変化が起こり始めた。
”なんとかならなく”なり出したのだ。
代役の稽古も、なんとかならない。
役作りも、なんとかならない。
起こる全てが、なんとかならない。
こんな不安定な
日常が続いたのはこれが初めて。
そんな状態のまま僕は今も
未知の世界へと足を踏み入れ続けている。
そして、不安になると・・
元居た場所に戻りたくなる。
安住の地で休みたくなる。
「(お家に、帰りたい・・・)」
情けないけれど
そんな思いがどんどん込み上げてくる。
そんな時だった。
完全ヤンキー
「ケント、あれ見てみ」
カサハラ
「え?」