「はっ!!」
一瞬、意識が遠のいた後、気が付くと
僕はアイマスクで目を塞がれ、
両手に手錠を掛けられた状態で、
パイプ椅子に座らされていた。
目の前は真っ暗闇。
何も見えない、
そして、身体も自由に動かせない。
僕を包み込むのは
ただ「恐怖」の2文字だけだった。
「これって今、どういう状況なんだ・・?」
今は、舞台の稽古中
で、あるはず。
しかし・・・
視界を塞がれ、手を縛られた状態では、
それが「真実」なのか
だんだんと、それは曖昧になってくる。
「え?待って・・・
これ、本当に監禁されてる訳じゃないよね・・?」
新手の犯罪か・・!?
舞台のオーディションと
言うのは表向きで・・
実は僕は、何か大きな事件に
巻き込まれてるのではないか・・・
そうだ・・
あの演出家ならば、やりかねない・・・
それに
あの側近のストレッチレディの、
異常なほどのポテンシャル。
「もしかしたらストレッチレディは、
某国のスパイって可能性も大いにあり得る・・・」
時折見せるストレッチレディの
カタコトな日本語もそれが理由なのではないか。
どんどんと、妄想は膨らんでいく。
そ、そういえば・・・
ヒノ君の昨日の、あの只ならぬ雰囲気・・
もしかしたら、ヒノ君は“何かヤバイこと”に気が付いて、
今日稽古場に来るのを取りやめたのかもしれない・・
きっとそうだ!
あんなに大変な思いをして
勝ち取った舞台出演の権利。
それなのに、稽古2日目にして
「無断欠席」するなんて・・
あり得ない、異常だ。
いや、もしかしたら・・・
ヒノ君はあの演出家と
ストレッチレディの手に掛かって、
すでに、もう・・・
あらぬ妄想が、
どんどんと頭の中を駆け巡る。
いや、分からない!
何なの・・・?何なのコレ!
何が真実で、何が偽りなのか。
考えれば考えるほど、
いろんな疑問が最悪の展開へと繋がってゆく。
目の前の暗闇、
そして身体の不自由が
どんどんと恐怖を助長し、
どんどんと思考回路が狂っていく。
僕の理性が、狂っていく。
そんな時だった。