僕は、壁づたいにゆっくりと進んでゆき、
手触りだけで電気のスイッチを探してはみるが・・
簡単には見つからない。
この空間が、
どのくらいの広さなのかも分からない。
「ゆっくり進んでいるだけでは、
いつまで経ってもスイッチを見つけることができないかもしれない・・」
僕は、歩くスピードをあげて
早くこの窮地を脱するため、そして
みんなの期待に応えるために躍起になった。
すると・・・
「ゴチン!!!」
「あイタっ!!!」
反対側から壁づたいに歩いてきた者と
頭同士をぶつけてしまった。
カサハラ
「す、すみません!!」
容疑者C
「何してんねん!はよ反対側に戻れや!」
カサハラ
「は、はい・・」
怒られた。
僕だけが悪い訳ではないのに・・
と、少し釈然としなかった。
すると・・・
容疑者D
「スイッチがあった!」
別の方向から声が聞こえてきた。
僕と頭ゴチン男以外にも、
壁づたいに電気のスイッチを
探していた者がいたようだった。
よしっ・・・
これで、一旦この危機を回避できるはずだ。
容疑者D
「電気、つけます!!」
パチン。
室内の明かりが付いた。
どのくらい暗闇の中で
右往左往していただろうか・・
明かりが付いた瞬間、
そのまぶしさに僕は目を細めた。
カサハラ
「ここは、一体・・・」
・
・
・
「はい。一旦終了。」
演出家がストップの合図をした。
そう。
ちゃんと、ここは“稽古場”で
ここまでの一連の流れも
“冒頭のト書き”の稽古そのままだった。
まぁ、冷静に考えればそうである。
ただただ僕は、急遽言い渡された
“代役”という状況にパニックに陥り・・・
良く分からない妄想と現実が並行したまま
あれよあれよという間に稽古がスタートし・・・
気が付けば、
“冒頭のト書き”のシーンが終了。
という感じだった。
カサハラ
「なんか、すごく不思議な感じだったな・・・」
これが、僕にとって
初めての“舞台稽古”の感想だった。