僕は頭を抱えた。
補講自体は、
この59位という順位、
この演技レベルでは
確実に受けた方が
良いに決まってるし・・・
養成所側も、
100社以上の芸能事務所が集う
公開オーディションでは
世に出しても恥ずかしくないように
クオリティの高い生徒を多く揃えたい
はず・・・
なので、
「補講」が行われること自体は
両者にとってとても有意義なこと。
しかし、
僕が頭を抱えた理由はただ一つ・・・
補講の担当が
「教務主任」だということだ。
そう、この教務主任こそ・・・
僕が音楽コースで
最後に受けた12月の定期審査会・・
あの講師“F”の楽曲を勝手にいじって
途中から“一人芝居をする”という
大奇行に走ったあの日・・・
他のみんなが
笑って楽しんでくれた中・・・
今にもぶちギレそうな表情で
僕のことを睨みつけていた
あの
“長髪のいかにも業界人っぽい”
教務主任なのだ。
僕
「さ、最悪だ・・・」
僕は抱えた頭を
しばらく上げることができなかった。
僕は、
一生の間でこれほどまでに
足取りが重くなる日は
あとにも先にもこれが最後だろう
と思うほど憂鬱な気持ちで
養成所に向かった。
「いっそのこと、逃げてしまいたい・・」
僕はこの憂鬱から
逃げられないかと本気で考え、
この前日に
「補講って受けないとダメですかね?」
と教務課の“ガタイのいい人”に
尋ねてみなところ・・・
「補講受けないと
最後のオーディションに出れないよ」
と、両断。
これが、
勝負のオーディションに出るための
まさに“最後の山場”。
もう腹を決めて行くしかない。
養成所に到着し、
指定のレッスン室の前に向かうと
すでに補講組の多くは
入り口の前に列になって待機していた。
話によると、
この補講は20人全員で
一緒に受けるものではなく
“ひとりひとり”が順番に
30秒のパフォーマンスを見てもらい
長髪のいかにも業界人っぽい教務主任に
直接指導してもらうとのこと。
「ひとりひとり・・・」
さらに憂鬱度が増す。
そして補講の開始時間になると、
列の先頭から順番に
ひとりずつ呼ばれていった。
所用時間は
1人、およそ5分。
僕は最後尾の方に並んでいたので
「1時間以上は待たされるのか。
早く終わって帰りたかったな・・・」
さらに憂鬱度は増してくる。