やっと、僕の番が来た。
待ち時間が長すぎて、
僕は少し眠りこけてしまっていた。
とは言え、
長髪のいかにも業界人っぽい教務主任との
「恐怖の個別指導」が待っていると思うと
気持ちよく眠れたものではなかった。
というか・・・
「寝てるんじゃねぇ、俺!」
である。
きっと現実逃避したい気持ちが
強すぎたのかもしれないけれど・・・
もっと集中するべきだ、俺。
そして、前の人が終わり、
僕は恐る恐るレッスン室の扉を開けた。
僕は、少しでも印象を・・・
あの大奇行に走った12月の審査会の時の
“最悪な印象”を少しでも覆せるように
気持ちをしっかり引き締めて
僕は教務主任に挨拶をした。
僕
「失礼します!カサハラケントです!
宜しくお願いします!」
長髪
「お前、待ってるとき寝てただろ?」
僕
「ぐはっ!!!」
寝ていたことがバレていた。
長髪
「廊下で寝てるのが見えたんだよ」
僕
「し、失礼しました!長くて・・」
最悪の印象を、早速更新だ。
長髪
「まぁいい。時間ないから早く演技して」
僕
「は、はい!」
僕は動揺しすぎて、
めちゃくちゃになりながらも
「俳優・タレントコース」の
1月の審査会で披露した演技をやってみせた。
ちなみにその演技の内容は、
「母親とはぐれて泣いている
小さな男の子に話しかける」
というもの。
“小さな男の子に話しかける”ということで
僕は顔と目線を下に落とすかたちで演技をしていた。
すると・・
長髪
「ダメだ。お前は“見せる”ことを意識できていない。
下を向いていたら審査員からはお前の演技中の表情が見えないだろ」
的確なダメ出しだった。
大奇行に走った12月の審査会の件や、
廊下で寝ていた件など・・
長髪の業界人っぽい教務主任の
逆鱗に触れることばかりやらかしていたので
まともに“指導”してもらえないんじゃないかと
ネガティブな想像をしてしまっていたが・・・
やはりそこは
“教務主任”だった。
その後も、
何度か同じ演技を繰り返し、
教務主任からダメ出しをもらっていると・・
長髪
「ていうか、そもそも演技の内容が、
お前のイメージにあんまり合ってないんだよな」
僕
「え!?」
せっかく考えた
オリジナルストーリーもダメだしされた。
長髪
「そうだな、お前、
“ブタがいた教室”って映画を知ってるか?」
僕
「いえ、初耳です」
“ブタがいた教室”とは・・
若き日の妻夫木聡が主人公をつとめる
小学校を舞台にした映画。
妻夫木聡演じる教師が受け持つクラスでブタを1年間飼育し、
最後にそれを食べるかを子どもたちで話し合うという・・・
“命”について、とても考えさせる名作。
長髪
「その主人公の“教師役”を参考にしてみろ。
そっちの方がお前のイメージに合うはずだから」
僕
「・・・は、はい」
というところで、
この日の補講は終了した。
僕は、補講の帰りに
TSUTAYAで“ブタがいた教室”をレンタルし
家に帰って、
妻夫木聡の演じる教師役について研究した。