僕のあとの4人の
「自己紹介」と「特技披露」が終わると・・
いよいよ
「演技審査」の突入である。
演出家
「ではこれから演技審査に入ります・・・」
ちなみに、僕の前の組は
「豪華客船が沈没した」という設定の・・
“即興演技”を求められていた。
僕はその様子を
オーディション会場わきの
“階段の中段”に腰を掛けて
じっと観察していたので
このあとの“演技審査”で
「何をやるか」を事前にチェックできていた。
そして、これは
時の運と言うか・・・
神様のイタズラというか・・
同じ組(76~80番)の
先頭であった僕は
前の組の「演技審査」の様子を
じっと観察することができたけれど・・
僕の後ろの4人は
ちょうどオーディション会場の様子が
階段から“死角”となっており
「演技審査」の全貌を
確認することができなかった。
という感じだったら
不公正の中にも正当性が存在するのだが・・
実際のところ
階段で並んでいるときに僕は
“悪知恵”が働き
「同じ組で、僕だけがオーディションの内容を知ることができれば
少しでも優位に立てるかもしれない・・」
「同じ組のメンバーの中で少しでも評価が高くなれば
審査を通過できる可能性はきっと広がるはずだ・・!」
「よし、後ろの人が死角になるこの位置で待機して、
僕だけがオーディションの様子を見えるようにすればOKだ!」
といった思惑で
階段の中段に腰を掛けて・・
「船が沈没する」というシチュエーションでの
“即興演技”を求められるということを僕だけこっそり確認していたのだ。
そうなれば、少しの時間でも
“船が沈没”するシチュエーションをイメージし、
対策を考えることもできる。
例えそれがわずかな時間だったとしても、
この「対策できる」と「できない」では
その優位性には、雲泥の差がある。
悪いヤツである。
でも、これは遊びではない。
人生を賭けた
勝負なのだから。
非道になることも
時には必要なことなのだ・・・
「よし、イメージを固めよう。
船が沈没するといえば・・
やはり想像しやすいのはタイタニックだな」
僕は昔見た
映画「タイタニック」の情景を思い出し
パニックに陥り我先にと
救助ボートに乗ろうとしたり
少しでも上へ上へと
甲板に急いで向かったりする
そんな慌てふためく乗客のイメージを
少しずつ鮮明に固めていった。
前の組でもそうだったが、
突然“即興演技”を求められた瞬間はみな
ポカンとした様子で
じっと硬直してしまっていた。
その瞬間こそ、
”勝負の分かれ目”である。
特技で披露した
トランプマジックもそうだ。
いかにうまく相手の目線を
誘導できるかが肝心である。
審査がスタートした瞬間に
すぐ演技に取り掛かることで
審査員全員の目線を
“こちらに向けさせる”ことができるのだ。
「同じグループの中で、少しでも評価が高くなれば
審査を通過できる可能性は高いはず・・」
そのためにも
少しでも“自分を見てくれる時間”を増やすこと
それがとても重要であるのだ。
全てのことに意味はある。
特に演技と関係性のなかった
トランプマジックも
“演技審査”を控えるこのタイミングで
良いシミュレーションになっていたのだ。