そして、演出家が
スタジオに戻ると稽古は再開。
休憩前の案内の通り、
同じシーンの”繰り返し稽古”となった。
「ここは、一体・・・」
主人公のセリフからスタートし・・・
”刑事役”登場の直前で再び「ストップ」。
そして、
同じ流れで、10分間の休憩。
機械的に、
それは繰り返されてゆく。
すると・・
「次は、今の”続き”から再開します。」
そう言いながら、
演出家はまたスタジオの外に出ていった。
今のシーンは、2回の稽古で、
この日は終了となったのだ。
「ふう・・続きは、どんなシーンだったっけ・・・?」
僕は、台本を開いて確認してみる。
前日の夜、僕は・・・
「オーディション組の5人は”人数や男女比率的”に
”刑事役”もしくは”遺族役”に振り分けられるだろう」
と予想していた。
次の稽古は、
その”刑事役(2人)”が登場するシーンだ。
「今日は、僕らオーディション組は”見学”と言われているけど・・・
次の”刑事が登場する”シーンはどうするのだろう・・」
刑事のシーンは、一旦、飛ばされるのか・・
はたまた・・
嫌な予感が走った。
「まさか、見学と言いつつ、急にオーディション組から”刑事役”が配役されて、稽古させられたりしないよね!?」
いやいやいや!
さすがにそんなはず有る訳ない・・!!
僕は、頭の中でそう繰り返す。
しかし、
”あの演出家”のことだ・・・
や り か ね な い 。
僕は一気に全身が震えあがる。
「落ち着け・・まだ、そうと決まった訳ではない・・」
僕は、大きく深呼吸して、
周りの様子を伺ってみる。
「もしかしたら、どこかに配役に繋がるヒントが落ちているかもしれない・・冷静になって見渡してみよう・・」
僕は一旦冷静になり、
ゆっくりと周りを見回してみることにした。
「う~ん・・・」
容疑者役の8人は
各々で休憩を取りながら、
次のシーンに向けて、
台本を確認している。
そして
ここまで出番のなかった出演者の方々も、
台本を確認して準備している。
休憩中も、みな
集中を切らしていない様子だ。
「・・特にヒントになりそうなものは見つからないなぁ・・」
すると
スタジオの端に座っていた
人物がゆっくりと立ち上がり・・
スタジオの中央へと歩み始めた。
「あれは・・某大人気アニメの、
大人気キャラクターの声優を務めている、ベテラン俳優さんだ・・!」
ベテラン俳優さんは、
スタジオの中央へ向かうと、
舞台上で色々と確認をし始めた。
所々に設置されたセットの様子から・・
容疑者たちがぶつかり合って
無造作に倒れているパイプ椅子の位置など。
それらを一つ一つ確認しながら、
自分の出番に備えてイメージを固めている様子だった。
「もしかしたら、ベテラン俳優さん・・・
次のシーンで登場するのか?・・ということは・・」
「では、再開します。」
演出家が戻ってきた。
「次は、”刑事の登場シーン”から始めます。」
や、やはり、刑事のシーンをやるのか・・!
果たしてどんな展開になるのか・・
僕は演出家の一挙手一投足をじっと見つめてみる。
すると・・・
演出家の声掛けとともに、
”ベテラン俳優さん”と、もう一人、
別の俳優さんが”登場の準備”を始める。
「おや・・あそこでベテラン俳優さんと、もう一人の俳優さんが“登場の準備”をしているということは・・・やはり、あの2人が”刑事役”で決定と言うことか!?」
よっしゃ!!
ここで、僕らオーディション組が
”急遽、稽古に参加させられる”
という最悪の予想は
無事に外れることとなった。
「ふぅ、これでまた安心して、
稽古を見学することが出来るぞ・・」
僕は、一息つきながら、
ベテラン俳優さんの演技がどういうモノなのかと、
少しワクワクした気持ちで
見学を再開しようと思った。
のだが・・・