遂に役者人生初めての
”稽古”に参加するカサハラ青年。
振り分けられた配役が”遺族C”という
アンサンブル(エキストラ的な感じ)だったため
「セリフもないし、稽古もそこまで大変じゃないだろう」
などという軽い気持ちでいたのだが、
急遽”容疑者役”の代役として
稽古にガッツリ参加することに・・・
人生初めての舞台稽古で、
メインの容疑者8人の代役という・・・
これまでかつてないほどの急展開と
極限プレッシャーの中ではあったが、
なんとか、なんとか、
やり過ごすことができたカサハラ青年。
だが・・
その矢先、
「ヒノ君、降板」
という衝撃の報せと、
そのヒノ君の代役
”ヒノウエさん”の急登場という
予想外過ぎる展開が続いたのであった・・・
ヒノウエ
「ミナサン、本番マデ、ヨロシクお願いします」
な、何なんだ、この人は・・・
稽古場がざわつきはじめる。
演出家から紹介があったように、
降板したヒノ君に代わり・・・
色黒で長身の
日本人離れした顔つきの
”ヒノウエさん”
が、遺族役として、
稽古に参加することになった。
カサハラ
「(降板が決定した直後に、こんなにもすぐ”代わり”が見つかるなんて、一体どうなっているんだ・・・!?)」
僕は、隣で稽古再開の準備をしていた
完全ヤンキーにこっそり聞いてみた。
カサハラ
「舞台って、こんなにもすぐに代わりのキャストが見つかるものなんですか?」
完全ヤンキー
「あ~・・まぁ、主宰する団体や、劇団よっては、”代役”を用意している現場はあったりはするかな~。例えば、稽古中や本番でキャストが怪我して出演が難しくなった場合でも、公演を中止するわけにはいかへんから。万が一に備えてって感じや~。」
カサハラ
「なるほど・・・何があっても良いように、万全な状態にしてるんですね・・」
完全ヤンキー
「でもな、そういう場合って、だいたいメインキャストに代役を用意される場合が多いから、
まさかアンサンブルにも代わりが用意されるなんて、思ってもみなかったな~」
カサハラ
「確かに・・僕ら遺族役って、台本にセリフないですし、少し人数が減ったくらいじゃ、そんなに影響はしなさそうですよね?」
完全ヤンキー
「せやねん。しかも、降板が決まってから、代役決定のスピードは、いくらなんでも早すぎやと思うねん」
カサハラ
「確かに・・・」
完全ヤンキー
「って、まぁこんなこと話してもしゃーない~。とりあえず、もうすぐ稽古再開されるから集中しとこな~」
カサハラ
「あ、そうですね・・!」
完全ヤンキー的にも、
このスピード代役決定は・・
やはり違和感があるらしい。
恐らく、”ヒノ君降板”を伝えた直後に、
「アイツに連絡しておいて」
と、演出家がストレッチレディに指示した”アイツ”とは、
このヒノウエさんで間違いはないだろう。
しかし、なんだろう・・
この異様な感じは・・・
僕は”ヒノウエさん”の方に目を向けた。
ヒノウエさんはニコニコとしながら、
演出家の横に立っている。
カサハラ
「(なんか・・不気味な感じだな・・)」
ストレッチレディと言い、この”ヒノウエさん”と言い、
あの演出家の周りには、”只者じゃない者”ばかりが集まる。
演出家
「では、稽古を再開します」
そして、再び、冒頭のト書きの続きから、
刑事登場の手前のシーンまで稽古がスタートした。