僕が抱いた不安、
それは・・・
”温度差”だ。
“場当たり”なので
みなは熱量をセーブしながらお芝居をする。
そんな中
僕だけが答えを見つけたいがあまり
”本気の熱量”をもって場当たりに臨んだところで・・・
果たして何かが
”生まれる”のだろうか・・?
探している
”答えが見つかる”のであろうか・・?
『お芝居は相手とのコミュニケーションで成り立つもの』
そう稽古中に完全ヤンキーが教えてくれた。
しかし、この状況で
”コミュニケーション”が成立するとは考えられない。
「(これってもう、詰んでるんじゃないか・・?)」
考えてみれば当然だ。
”稽古”はもうすでに2日前に
あのスタジオですべて終了しているのだ。
演出家から与えられた
”セリフ有り”のチャンスも逃し・・
フワフワと地に足がついていない状態の
”神谷椎太郎”で・・・
僕の役作りは終了しているのだ。
稽古が終わった今、
どうあがいたって何も変えることはできない。
「みなさん、僕のために熱量を合わせてお芝居をしてください!」
なんて要求は、口が裂けても言うことはできない。
もう・・・終わったのだ。
「では、次は”遺族たち”登場のシーンの場当たりになります!遺族が入ってきてから、出てゆくまでの流れを一連で流していきますので、準備をお願いします!」
そう舞台監督からのアナウンスが入った。
完全ヤンキー
「よっしゃ!ほないこか~」
カサハラ
「はい・・」
僕ら”遺族たち”は、
舞台監督の指示に従って密室の扉の裏側に待機した。
密室内の容疑者役の”キッカケ台詞”が聞こえたら
遺族の”リーダー”を先導に、一気に”遺族たち”は、室内になだれ込む。
舞台監督
「この扉は一度に2人が通るのがギリギリなので、くれぐれも入るときは気を付けてください!」
遺族たち
「はい!」
舞台監督
「では、”遺族たち”登場のシーン、場当たりを行います!」
そう言いながら
舞台監督は客席の方へ走り去り・・・
「よーい、ハイ!」
の合図で場当たりがスタート。
ほどなくして
容疑者役の”キッカケ台詞”が聞こえると・・
リーダーは「バン!」と扉を開けて
安全を確認しながら、僕ら”遺族たち”は一気に室内へと・・・
”ステージ上”へとなだれ込んだ。