遂に、役者人生初めての
”稽古”に参加するカサハラ青年。
紆余曲折ありながらも
何とか食らいついていき・・
自身の演じる役である
”神谷椎太郎”のキャラクターを
どんどん作り上げていく中・・
本番まであと5日というところで
突然、演出家から
「遺族たちにもセリフを与えよう」
と切り出された。
本来ならば喜ばしい
展開のはずだが・・・
お芝居ド素人のカサハラ青年にとっては
とてつもないプレッシャーとなり
結局、セリフを与えて
もらえずに終わってしまった・・
そして、フワフワとした不完全なままの
”神谷椎太郎”というキャラクターを引き下げ
ついに”小屋入り。
そして、”場当たり”が行われている最中
完全ヤンキーからとある”お題”を出され・・
さらにカサハラ青年は、
頭を抱えるのであったが・・・
遂に、その正解となる
”コミュニケーション”の重要さに気づくことができた。
さあ、あとはゲネプロを2回こなしたら、本番開幕。
だったのだが・・・
「では、まもなくゲネプロを開始します」
舞台監督が各控え場所を周り
役者全員にそうアナウンスをした。
その直後に
オープニングミュージックが劇場内に流れ出す。
すると、ゆっくりと照明が落ちていき・・・・
客席側は完全に真っ暗となった。
舞台裏には少しの明かりと蓄光シールで
なんとか足元は確認できる状態。
「では、容疑者役のみなさん、舞台上にお願いします」
舞台監督が小さな声で合図すると・・・
首にアイマスクをぶら下げて
両手に手錠を掛けた容疑者役の8人がゆっくりと
ステージ上の自分の座る
パイプ椅子を目掛けて歩き出す。
客席同様、舞台上も完全なる暗闇ではあるが
場当たり中にチェックした蓄光シールの位置などを確認しながら
オープニングミュージックが流れている中
音を立てずに歩いてゆく。
8人全員がパイプ椅子に
座ったことを舞台監督が確認すると
客席後方部に位置する
照明・音声スタッフに向けてインカムで
「準備OKです」と小声で告げた。
すると・・・
オープニングミュージックは
どんどん音量が上がってゆき・・・
客席を、そして
待機している役者陣を煽りだす。
まもなく
ゲネプロがスタートする合図だ。
そして
オープニングミュージックが
最大の盛り上がりを見せたところで・・
プツンと音が止まる。
すると劇場内に
一瞬の静けさが訪れる。
そして、その直後・・・
「カチャカチャ・・」
手錠がぶつかり合う音が
微かに聞こえ始める。
「ギ、ギィィィ・・」
パイプ椅子のきしむ音も
場内に静かに響き渡る。
そう。その瞬間
”冒頭のト書きのシーン”から
本気の演技のぶつかり合いは開始したのだ。