僕は、ステージ上に飛び出した瞬間
あるものが目に入ってしまった。
「(あれ‥?客席に人がいる・・・え?もう、お客さんが入ってるの?!)」
僕は完全に動揺してしまった。
ゲネプロはお客さん無しで
本番同様のお芝居をする。
そう聞いていたのだが・・・
実際に客席には
チラホラとお客さんが座っている。
「(なんでなんで!?)」
やばい、完全に集中が切れてしまった。
僕は、目をキョロキョロさせながら
居心地悪くあたりをうろうろと歩き続けてしまい、
誰とも目を合わることもできず
ただただお芝居の邪魔ばかりをしてしまった。
そして
あっという間に遺族たち登場のシーンが終わると
みなゾロゾロと扉から再び舞台裏へとはけていった。
「(ぐぐぐ・・完全にやってしまった)」
でも待ってくれ。
これはゲネプロのはずじゃないのか?
演出家だって、舞台監督だって、完全ヤンキーだって
ゲネプロにお客さんが入るだなんて一言も言ってなかったはずだ。
僕は詰めるように
完全ヤンキーにそれを問いただそうとした。
が・・・
「(こ、こええ・・なんか、完全ヤンキーの目がこええ・・・)」
いつもの柔らかく頼りになる優しい目をした
完全ヤンキーはそこにはいない。
それは、殺気に満ち溢れている。
確実に話しかけちゃいけないオーラを
完全ヤンキーは全身にまとっていた。
「(な、なんなんだ・・・急にキャラが変わっちゃって・・・とりあえず、ゲネプロが終わるまでは話しかけない方が良いかもしれないな・・)」
そう思い
とりあえず僕はまた
出番が近づくまでは舞台裏のモニターの前で
ステージ上で繰り広げられる
本気の演技のぶつかり合いを眺めることにした。