「テレビに出る人」になりたい
という夢だけを持ち、
幾多の困難に直面してきたカサハラ青年。
ずっと、本当にずっと、
”漠然としたまま”の夢だったが、
カサハラ青年はいつどんな時も
諦めることはしなかった。
ただただ、
諦めることはしなかった。
そして・・
必ず、いつか上手くいくはずだと、
ただただ漠然と自分を信じ続けた先に・・・
ついに、カサハラ青年は
「舞台出演」という
オーディションの合格を勝ち取れたのだ。
夢へと続くスタートラインに、
立つことが出来たのだ。
第3章「職業:役者」
今、開幕。
これは現実なのか、夢なのか。
心も足取りもおぼつかないまま、
僕は、アパートへと帰ってきた。
荷物をおろし、手を洗い、部屋着に着替えて・・
ふと気が付く。
「あ、夕飯、買うの忘れた・・」
まぁ、いっか。
そんなに食欲もなかった。
その日に着た“動きやすい服装”を
リュックから出して、洗濯機に放り込む。
そして、
リュックの背中側の
ポケットに差し込んでいた
”あの冊子”も取り出した。
舞台の”台本”だ。
僕は、台本を両手に持ったまま
部屋の真ん中で立ち尽くした。
想像もしていなかった。
これまで幾度となく、
“好機”は訪れていたはずだった。
「笑っていいとも!」でグランプリを獲得した時。
養成所に準特待生として入所した時。
養成所の勝負のオーディションで、5社から声をかけてもらった時。
そのどれもが、
僕の人生を大きく変化させる可能性を秘めていた。
しかし結局・・・
そのどれもが僕が思い描くような
未来へと繋がっていくことはなかった。
いや、違う。
僕が、描こうとしなかっただけだ。
ずっと待っているだけだった。
「何かキッカケがあれば・・」
「そのうちチャンスが向こうからやってくるはず・・」
本当に大事な時に限って、
僕はずっと待っているだけだった。
しかし、今回は少しだけ違っていた。
不誠実な理由だったとしても、
“初めて”自分の手でオーディションに申込んだ。
そして、
書類審査を通過して
2次審査、最終審査の3日間
どうすれば生き残れるかと・・
必死になって、本気になって、
全身で考えて、全身でもがき続けた。
もう、後がなかったからだ。
その結果、
何とか、
一本の藁に縋ることができた。
まだ実感はない。
どんな未来が
待っているかわからない。
しかし、一つだけ確実なことがある。
明日から僕は、
「役者」としての道を歩み始めるのだ。