そして3グループ目の
演技審査が終わると・・・
「では最後の2組。前にどうぞ」
演出家の指示で、
僕とヒノ君のペアは、スタジオの中央に打って出た。
そして、まずは
「ジャンケンタイム。」
もはやこの場全体が
「返報性の原理」によって引っ張られているため、
たとえジャンケンの結果で
先攻になろうが後攻になろうが・・
僕のやることは変わらない。
ただただ、ヒノ君の演技を
「否定」すれば良いだけのことだから。
僕・ヒノ君
「せーの、ジャンケンポン!」
ジャンケンは僕が勝ち、ヒノ君が負けた。
ということで演技の順番は・・
“僕が先攻”で“ヒノ君が後攻”となった。
ヒノ君
「カサハラくんごめんね、僕が先に演技する約束だったのに~」
僕
「ううん、大丈夫だよ!気にしないで~」
謝るのは僕の方だよ、ヒノ君。
本当にごめんね。
そして・・
演出家
「じゃあ、演技スタート。パン!」
演出家の号令とともにそして、
僕の演技ターンが開始した。
僕は、お題の設定に則りながら、
「本番直前の舞台袖で、体育座りをして
目をつぶりながら集中力を高めていく・・・」
という演技を披露した。
ただ・・
正直これは、
“ヒノ君の癖や特徴を生かした演技”ではない。
だって、僕は20分間のコミュニケーションで
ヒノ君の癖も特徴も一切、把握することができなかったから。
「下手にヒノ君に似せるようなことはしないで、
ここは敢えて”自分に置き換えて”演技をしてみよう。」
もはや・・
今のこの「返報性の原則」によって
支配されたスタジオ内では・・
誰もが「高評価」をつける以外の回答は・・
存在しない。
それはヒノ君も然りだ。
だったら、この演技披露では・・
下手なことはせず、なるべくナチュラルな演技になるように・・
演じる人物をヒノ君ではなく”自分自身に置き換えて”やるのがベストであるのだ。
誰だって、見ず知らずの他人の演技をするよりも、
“自分自身の演技”をする方が確実に得意なはずだから。
という訳で、僕は・・
”ヒノ君を演じているフリ”をしながら、
計算し尽くされたポイントアップの確定要素を
一つずつこなしていった。
そして・・
「パン!はい、終わり。」
演出家の号令で、
僕の演技ターンは終了した。