遂に、役者人生初めての
”稽古”に参加するカサハラ青年。
紆余曲折ありながらも、
何とか食らいついていき・・
自身の演じる役である
”神谷椎太郎”のキャラクターを
どんどん作り上げていく中・・
本番まであと
5日というところで突然
「遺族たちにもセリフを与えよう」
と演出家に切り出され・・・
頭が真っ白になるのであった。
演出家
「そうだ、”遺族たち”にセリフを与えよう」
「え!?」
せ、セリフだと・・・
「よっしゃ・・!」
隣にいた完全ヤンキーは
小声でそう漏らした。
他のオーディション組の方を見ても
みな同様にその表情は
喜びにあふれているようだった。
ヒノウエさんもニヤリと微笑んでいた。
しかし・・・
「(せ、セリフだなんて・・・恐ろしすぎる・・)」
僕にとってそれは
恐怖でしかなかった。
稽古の序盤は何度か
代役でセリフ有りのお芝居も
経験させてもらったとは言え・・・
本役の「神谷椎太郎」として、
セリフ有りとなると・・
それは全く別の話となる。
これまで、演出家から
”神谷椎太郎”に求められていたことは
その場で自然に存在すること。
つまり「リアリティ」。
それを僕なりに、追求し
固めて、そして、かみ砕き・・
少しずつではあるが
「神谷椎太郎」として
その場に立つことが
でき始めている感覚もあった。
しかし・・
ここで
「セリフ有り」となると
状況は一変する。
「一体、どんなセリフを与えられるんだ・・」
そう。
与えられるセリフ次第では
これまで作り上げてきた
「神谷椎太郎」という人物と
相違が生まれてくるのではないかと・・
きっと、演技経験者にとっては、
そんな場合でも”上手く”対応できるのであろう。
でも、演技経験の
少ない僕にとっては
この10日弱の舞台稽古が、
いわば“僕の演技の全て”であり・・・
そこからハミ出る瞬間
「不安」が大きく
襲い掛かってきたのだ。