準特待生として養成所に入所したカサハラ青年。
この養成所には、
「10月」と「2月」に、
100社以上の芸能事務所の方の前で
公開オーディションが開催されるという大チャンスがある。
しかし、
10月と2月の公開オーディション、
参加できるのはどちらか一回のみ。
10月に参加できるのは養成所からGOサインの出た、
いわゆる”認められたメンバー”。
そして2月に参加できるのは
いわゆる”残り組”。
そのどちらに振り分けられるかが決まるのは、
7月と9月に開催される”定期審査会”の順位次第。
”10月組”の定員はおよそ20名。
つまり7月と9月の定期審査会で20位以内に入らなければ、
”10月組”に入ることは難しくなる。
しかし、迎えた7月の定期審査会。
カサハラ青年の順位は”40位”。
10月組に選ばれるためには、
9月の定期審査会で挽回するしかなかったのだが・・
迎えた9月の定期審査会も
まさかの”40位”。
10月組に入れなかったことはもちろん、
自分の限界を感じ、「もう辞めようかな・・」と諦めかけてしまうが、
その時、同じクラスのEXILEっぽい男から・・
「ケント、俺と一緒に”俳優・タレントコース”に移動しようぜ!」
と、トンデモナイ提案を受けるのであった・・・
「ケント、俺と一緒に“俳優・タレントコース”に移動しようぜ!」
な、何を言っているんだ・・・
この人は、レッスン初日に
「タイプが違いすぎてきっと仲良くなれなそうだな・・」
と思った四天王ならぬ、四天EXILEのうちの一人。
その中でも、ひときわ目力が強烈で威圧感抜群、
ドクロマークのキャップに色黒の、EXILEっぽい男・・
通称“マーシー。
(※ちなみに四天EXILEの4人は、本家EXILEのように熱く仲間意識の強い男たちかと思いきや、特に4人で仲良くしているところを見たことはなく、気が付けば“マーシー”以外はみな養成所を去っていた。)
僕
「いや、急にそんなこと言われても・・
今更コースを変えるのは無理なんじゃないですか?」
マーシー
「いや、行けるっしょ!教務課の人に言いに行こうぜ!」
マーシーは、
見た目の通り強引な男である。
僕
「いや、でも、もう何ヵ月も音楽のレッスン受けてるし・・
今からコース変えるのはもったいないですよ。」
マーシー
「いやいや、お前、まだ音楽でどうにかなると思ってんの?」
僕
「え?」
マーシー
「初日に講師“F”も言ってただろ?“1年でどうにかなると思うなよ”って」
僕
「確かに言ってましたけど、まだこれからの頑張り次第ではどうにかなると・・」
マーシーの強引さに押されつつも
なんとか食い下がる僕であったが・・・
マーシーは僕に
強烈なストレートを打ち込んできた。
マーシー
「でも、お前、歌上手くないぜ?」
僕
「ぐはっ!!」
僕の左顎にクリーンヒット。
まさに“痛いところ”を突かれた。
実は僕自身、「俺って、歌、上手くないんだな・・・」
と、養成所に入ってから周りのレベルを見て痛感していたのだ。
が、しかし・・・
「でも僕は“準特待生”で選ばれたんだから・・
“準特待生”で選ばれたんだから・・」
と、養成所の特待生オーディションで
何故か高評価を受けていたことで、
いらぬプライドのようなものを捨てきれず
ここ数ヵ月、右往左往し続けていたのだ。
でも、今更コースを変えるなんて・・
これまで僕の努力がすべて水の泡となってしまう。
レッスン後にあんなに個人練習をして・・
大学の授業後には一人カラオケで練習して・・・
いくら上達が遅くたって・・・
今までの努力が無駄になるなんてことはないはずだ!
僕
「でも、マーシー、僕もこの数ヵ月間・・」
マーシー
「もう一回言うぞ。お前、歌上手くないぜ。」
僕
「ぐぉっ!!」
今度は、右顎にクリーンヒット。
わかってる!わかってるから!
もうこれ以上言わないで!!
努力だけでどうにかなる世界じゃないってことも分かってる!
でも、僕だって一度夢見た“シンガーソングライター”という姿・・・
あの憧れの“福山雅治”のようなスーパースターに・・・
僕も、なりたいんです!!
僕
「マーシー、僕にはあの“福山雅治”のような・・」
マーシー
「ハッキリ言って、お前、歌下手だぜ。」
僕
「ぐぼっ!!!」
カン!!カン!!カン!!
テクニカルノックアウト。
僕は
マーシーと一緒に、
“俳優・タレントコース”
に移動すべく、
教務課の人に変更願いをすることにした。