前夜と同じチェーン店に
やってきた僕らは
さっそく食券機で定食を選び、
カウンター席で横並びに居座った。
完全ヤンキー
「やっと俺ら“遺族たちのシーン”稽古やってもらえたな~」
カサハラ
「本当に安心しましたよ~!やっぱり、台本を読んで頭でイメージするのと、実際に稽古で動いて稽古するのって、全然違うモノですね・・・」
完全ヤンキー
「そりゃそうやで~!いくら自分の頭の中で演技のプラン考えていったってな、相手の出方によってはそのプランってもんは大体崩れるもんなんやで~」
カサハラ
「やっぱりそういうものなんですね・・僕も、遺族シーンの1回目の時は、あれだけ台本を読み込んでいったのに、実際にその場に“神谷椎太郎”として立ってみたら、何もできなくて、頭が真っ白になりましたもん・・」
完全ヤンキー
「まぁ、だいたい初めて稽古するシーンの時とかは、そうなることが多いもんやで~そんで、何回かそのシーンの稽古を繰り返して、形を固めていくってのが“普通”のやり方ではあるからな~」
カサハラ
「“普通のやり方”ですか?・・てことは、やっぱり今回の演出家のやり方は、特殊な感じですか?」
完全ヤンキー
「ん~まぁ、特殊って言うか、演出家それぞれの“求めるモノの違い”ってのはあると思うけど、今回の場合は、1回目より、2回目の方が演出家もヒノウエさんも『面白くなかった』って言ってたやろ?」
カサハラ
「そうですね・・・1回目の反省を生かして修正を試みたりしたら、2人とも『面白くない』って・・」
完全ヤンキー
「まぁ、そこで今回の演出家の求めてる“リアリティ”って部分が俺はよ~く分かった気がした感じやな」
カサハラ
「僕も、感覚的にですけど、ちょっと求められてることが分かった気がしました・・!」
完全ヤンキー
「まぁ、ケントはスッとその感覚を落とし込むのは難しくないかもな~」
カサハラ
「え?なんでですか?」
完全ヤンキー
「今回の舞台が、ケントにとって初めての舞台、そして演技を学ぶ場やろ?」
カサハラ
「そうですね・・完全に初めてです」
完全ヤンキー
「俺は、もう何年も舞台も芝居も経験してる分な、今回の特殊なやり方に対応するのが、なかなか難しいところがあってん」
カサハラ
「そうなんですか?」
完全ヤンキー
「まぁ、みんながみんなそうって訳やないけどな、俺が今までいろんな場所で演じてきた芝居は、基本的に『表現』を求められる現場ばっかりやったねん」
カサハラ
「『表現』・・・ですか?」
完全ヤンキー
「舞台上の立ち位置や、セリフの大きさ、表情、動き、その全部をお客さんに見やすいように、聞きやすいように考えてやるのが、まぁ『表現』って言い方をするのかもしれへんけど、今回は、それが真逆やねん」
カサハラ
「確かに、今回の演出家の求める“リアリティ”の部分と比べると、『表現』は全部真逆をいってますね・・」
完全ヤンキー
「そうやねん~やから、今日の稽古中に俺がケントに助言したことも、結局ヒノウエさんを通して、演出家から『NG』を食らってしまってるねん~」
カサハラ
「なるほど・・『表現』と『リアリティ』の違いが、ぶつかってしまったんですね」
完全ヤンキー
「せやねん、やから・・・混乱させるような助言させてしまってゴメンな!」
カサハラ
「いえいえ!むしろありがとうございます!!まだ僕には何もかもが分からない状態なので、1つでも何か教えてもらえるだけで、本当に嬉しいです・・!」
完全ヤンキー
「ホンマか?」
カサハラ
「ホンマです!」
完全ヤンキー
「ほな、良かったわ~!まぁ、今回の舞台に関しては、俺にとっても初めてのことばっかりやから、お互い協力しながら良い作品、良い“遺族たち”作って行こな~!」
カサハラ
「はい・・!」
その日の夜は、
完全ヤンキーと
さらに仲を深めることができ・・
そして改めて
この舞台への思い
演技への思いと言う部分を
再確認することができた。
この日は、
『僕の役者人生にとって、本当に大きな1日なった。』
そう感じることができた。