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もう後戻りはできない




ガシガシ音は、
およそ「10秒」続き・・



次第に周りも
「大丈夫か?大丈夫か?」
と慌て出す。



業界人っぽい教務主任も、
「なんだこれ?段取り悪りいなぁ」


と不機嫌なご様子。




そんな最中、
ガシガシ音は、プツンと止まる。


「あ、良かった、止まった」

と、みな安堵する。




すると次の瞬間・・・・


「ててて、てんてんてんてれてって~♪
ててて、てんてんてんてれてって~♪」




講師Fに作ってもらった
楽曲のサビをここでブチ切り・・


中国映画「レッドクリフ(主演:金城武)」をイメージした
壮大な音楽が流れ始まる。





講師と教務主任も含め、
周りのみなが

「何だ!?何だ!?」

と再びざわつき始める。




そして、
僕はゆっくり立ち上がった。



みんな
「!?」




みんな「ポカン」とした
表情をしていた。



僕は立ち上がると

パフォーマンスステージの
ど真ん中までゆっくり歩いていき・・・



勝手に、「一人芝居」を始めた。




芝居の内容は…

========

一人の男が、

頑張って夢を追い続けるも
全然思うように行かない・・・

「こんなはずではなかったのに」

という、やるせなさ。

そして、

志なかばで、夢を諦めて去っていった
仲間たちへの

「無念の想い」。


========

そう・・・

この養成所で過ごした
およそ8ヶ月間の・・・


誰にも言えなかった、
心にしまっていた想いを


もう一人の″自分″を
この一人芝居の“主人公”として





すべて、吐き出した。





そして、奇しくも・・・


僕はこの時、初めて
「演技」することとなったのだ。





うまく出来たかは、わからない。




でも、誰かが作った
セリフをしゃべることよりも・・・


本気の「想い」をセリフにして込めれば・・
きっと誰かに届いてくれるはず。




僕は、今できるすべて出しきった。

今にもぶちギレそうな表情で 僕の方を睨み付けていた。





「ありがとうございました。」ペコリ。




僕は、ゆっくりとお辞儀をした。
周りはシーンとしている。



「え、何も反応ないの・・・怖えぇ・・!!」



一気に気分は現実に戻った。



冷静に考えろ・・


この大事な
“12月の審査会”という場で




あろうことか、



講師がせっかく作ってくれた楽曲を勝手にいじり、
さらにはサビ全部をブチ切って勝手に一人芝居をした挙句・・


『本気の「想い」をセリフにして込めれば・・
きっと誰かに届いてくれるはず』



だなんて、




アホみたいな妄想を勝手に並べて
好き勝手にしゃべって・・・





こんなのを講師と仲間たちの前・・
さらには“教務主任”の前で披露するなんて



まさに狂気の沙汰。





「これは、完全にやっちまった・・・」




事態を把握し、
僕は後悔タイムに入る。





「あぁ、戻っておくれ・・・

昨日“禁断のボタン”を押す前に・・

講師“F”と仲良く楽曲制作していたあの時に・・

戻ってくれぇ・・!!」






静けさの中、


「・・・カサハラぁ」



一番最初に声を上げたのは
やはり“講師F”だった。




講師F
『カサハラぁてめぇ!
俺が折角作った音源、勝手にいじりやがったな!
しかもサビの全部ブチ切りやがって!!』




『す、すみません!』


僕は必死に謝った。
そして恐る恐る、講師Fの顔を見た。





講師Fは・・・



笑顔だった。





講師F
『ははは!でも、面白かったから許してやるよ!』




『え、あ、ありがとうございます!』



講師F
『サビ以降の音源は自分で作ったのか?』




『あ、はい、サビをブチ切って、
レッドクリフをイメージして勝手に作ってしまいました』



講師F
『おう、なかなか良かったぞ!ただ全然レッドクリフじゃなかったけどな!
でも、初めてお前から“自由”を感じたよ』




「自由・・」




なんだろう、
とても嬉しい言葉だった。



他の講師のみなさんも一様に
『カサハラおもしろかったよ』と言ってくれた。



芝居の内容的にも、別に

『おもしろくしよう』

と思って作った訳では
なかったのだが・・・



でも、とりあえず
これで大きな山場を乗り超えた気がした。




その流れで・・



2月は「俳優・タレントコース」で
オーディションを受けようと思っていることも話した。


もちろん「音楽コース」の皆さんには
ごめんなさいという想いも込めながら。



すると、みんなは
「頑張れよ」と励ましてくれた。



マーシーの言うとおりだった。



僕はみんなに勝手に嫌われると
思い込んでいただけだったのだ。



「これでなんの迷いもなく
“俳優・タレントコース”でオーディションを受けられる」



そう思った。



そんな中、

チラッと一番端に座っている
“長髪の業界人っぽい”教務主任と
目が合った。



教務主任は・・・・




今にもぶちギレそうな表情で、
僕の方を睨み付けていた。






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カサハラケント
カサハラケント (笠原賢人) 1988年5月17日生まれ 新潟県新発田市(旧紫雲寺町)出身 2011年、大学を卒業後、 役者・絵描き・クリエイター活動を開始。 役者としては、 主に舞台(40本以上)やCM等で活動。 絵描き・クリエイターとしては、 個人や企業・行政から依頼多数。 横浜の商業施設でのグッズ販売に、 ZeppTokyoで開催されたファッションイベントでは 自身作成のロゴがメイン採用。 2019年には、 地元新発田市の図書館で個展も開催。 また、2018年からは 新発田市と共同でプロモーションムービーを制作。 2021年に高校生とともに企画・制作したCMは 「新潟ふるさとCM大賞」で準グランプリを獲得。 その他にも、 舞台やコントライブの脚本や、 人気バンドユニットの小道具制作など 幅広くクリエイター活動を展開。 将来の夢は、 「新発田で映画を撮る」こと。 そして、全国の人に 「新発田」を「しばた」と 読んでもらえるようになること。

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