「では、キャスト・スタッフのみなさん!客席に集合してください!」
舞台監督のアナウンスが入ると
衣装・メイクを整えたキャスト全員が、
“それぞれの控室”から出て来て
客席へと向かっていった。
僕もその流れに乗り遅れないように
バッチリと喪服となる黒いスーツを身にまとい、
顔は前日よりは自然な”青白さ”に塗り固め
通路の隅から完全ヤンキーと一緒に客席へと小走りで向かった。
舞台監督
「本日、小屋入り2日目、宜しくお願いします!今日は終日”場当たり”となります!前日同様、怪我だけには気を付けて、ステージ上、そして裏の回りのチェックをお願いします!」
キャスト
「はい!」
舞台監督
「では、演出家から何かあれば・・!」
演出家
「いえ、特にないです」
演出家はそう言い残し、客席の中央に
仮設された演出家席へゆっくりと腰を掛けた。
「(もうここまで来たら、演出家は特に何も言わないものなのかな・・・?)」
前日の場当たりでもそうだった。
基本的には舞台監督が現場ですべての指示をだし
演出家が口を出すことはほとんどなかった。
「(スタジオでの稽古ももう終わってしまったし・・演出家から演技に関する指導はもうないのだろうか・・)」
稽古中は演出家から放たれる言葉の一言一句に耳を傾け
ド素人ながらもその時その時で出来る限りのことは挑戦し続けていた。
それが今
”何も言ってもらえない”
という状況になると僕の中で
否応にも不安は募り続けてしまう。